Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 04 16
東都ニュースネットワーク(TNN)の報道ヘリはこの時、川の真上近くを一定の高度で旋回していた。
機内では無線がひっきりなしに飛び交い、カメラマンはビル街の異変をファインダー越しに捉え続ける。
記者は後部座席から、下方の混乱を実況めいた口調でレポートにまとめていた。
操縦士は揺れる機体を安定させつつ、風の流れにわずかな異常を感じ取っていた。
「……えっ?」
その目がふいに横手のビルへ向けられた、その瞬間。
壁面が大きく膨れ、ガラスを粉砕して飛び出してきたのは、跳躍の勢いをまとった巨人――ハヴォックだった。
両手を広げた黒っぽい肥満した姿が、全重量を載せて、ヘリの進路めがけて一直線に躍りかかってくる。
「うわあああああああ!!」
悲鳴を上げたのは操縦士ではなかった。同乗していた記者のひとりだ。
迫る死の予感が、彼らにとっての数秒を引き延ばす。
次の瞬間、乗員たちは無意識に身体を動かしていた。ドアを蹴り開け、下に広がる川面へと我先に飛び込む。
頭から墜ちた冷水の衝撃と、まだ少しくらいの間は回り続けるだろう、ローターの風圧に打たれた皮膚の痛み。どちらが強かったかは、もう分からなかった。
空っぽになったヘリコプターは、ハヴォックの突進をまともに受けて空中で爆散した。
機体はねじ切れるように折れ、燃料が破裂音とともに四方へ飛び散る。
ホットショットにとって運が悪かったのは、火球の膨らみ始めた刹那、体の舵を取り間違えて
ちょうどそこに突っ込んでしまったことだ。
「……うおァッッ!!」
ハヴォックが意図したのかどうかは分からない。しかし、問題は衝撃の強度だった。
彼女の変身能力は、一定量の燃焼体積を前提とする。
それを維持するプラズマの閉じ込め領域――その力場が、爆風との激突によって激しく揺らぎ、形状が崩れる危険域に達していた。
ほんの刹那の遅れで、ホットショットは制御を失い、変身を解かれる。
――落下。
放物線を描いて宙に投げ出された彼女を待ち受けていたのは、川向こうの道路、赤信号で停車していた大型トラックのコンテナだった。
吉濱アシュリー、生身の身体が斜め上から落下し、硬質な天板の角に狙いすましたように激突する。
「ぐしゃっ」
金属板は大きく凹み、柔らかな緩衝材さながらの歪みを呈した。
へこんだコンテナの縁から、ホットショットは小柄な身体をずるりと滑り落とし、真下の地面へ肩から崩れ落ちる。
常人であれば、一撃で骨のどこかが砕け、命を落としていても不思議はない衝撃だった。
だが彼女は、神霊に属する存在から直接、長年にわたる鍛錬を受けた者――どのような状態であろうと、
その肉体の性質は常に「人間離れ」したものだった。
つまり彼女は、
「にゃっろぉ……!」
肩で息をしつつも、自らの脚で立ち上ったのである。
レンガ敷きの歩道がその体重をしっかりと受け止め、数歩よろめいたのちには、やおら再び駆け出していく。
その姿を目撃した通行人のひとりが、「えっ?」と短く息を呑んだ。
耳目に焼き付くほどの爆炎の只中から、スカジャン姿の少女がいきなり弾き出され、トラックに激突し、それでもまだ生きている――誰がそんな光景を、すぐさま現実として受け入れられようか。
だが彼女は、驚愕に目を見張る人々の存在など意にも介さず、
その肩を片手で押しのけるように振り払いながら、再び地を蹴る。
跳躍の勢いで脚がおおきく伸び、宙に浮いたその一瞬――
頭頂から爪先の順で炎のヴェールが克明に身を覆い尽くしていき、
丹田の1点から拡がるプラズマの場が、その輪郭を、燃える戦士――ホットショットの姿へとあらためて編み直していった。
かくしてホットショットは、空へと還る。
焦げついた空気の中、残光の尾を引きながら上昇していった。




