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カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire

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Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 04 12

「……やっぱりここ!敵は全部、この通りに集まってる」


ミーティスの耳に、上空で鳴る風の音が届く。

それは、地上ではけして聞こえない、都市そのものが発しているような深くて長い呼吸だ。


その時である。

「うわぁーッッ!!」

街の片隅から、喉が潰れそうなほどの悲鳴が響いた。それは、命に危機が迫った者の本気の叫びだった。


プロディジーとの、激しい白兵戦の最中、

「おじさんの声だ!……さなは耳目符を使ってる!はちる、おじさんをお願い!」

空をちらりと窺い見たイムノの一声に応じ、


「わうっ!」

プロディジーに殴りかかるのをやめたスヌープキャットが、そのまま身を宙でひねって地を蹴りなおす。しなやかな脚が舗装を弾き、

耳をたたみながら一気に路地裏へと身を投げた。


*


その先――、

路地の壁際、背を押しつけるようにして縮こまる中年男の姿があった。目を見開き、手は無力に宙を泳いでいる。目前には銃口を突きつけるドロイドの影。今にも引き金が絞られようとしていた、まさにその時、


「やっほっ!ジュース買ってきたよ!」

白い影が、頭上から降ってくる。


スヌープキャットだ。空中でひときわ大きく身をひねり、着地の反動を四肢へと伝えた彼女は、

腕の毛並みをしなやかに逆立たたせ、射かけられる無数のブラスター弾をものともせず、肩を軸にしたラリアットで力強い1歩を踏み込んだ。


――メキィッ!!


鋼よりも頑丈な前腕がドロイドの胸郭に深くめり込めば、機体は軋みながら上半身をもぎ取られていく。

その破壊の余波は、後方にひかえていた小隊にも時間差なく波及し、連鎖的に装甲を砕いては宙へと飛ばしていったのである。


ぶつかり合った機体群はたがいの肢体を巻き込みながら、衝撃の突風に一掃され、破片は礫のようにビルの壁面へとぶちまけられていく。

最後に跳ね返った機体の胴が地に叩きつけられ、電流の残滓をまといながら瓦礫の山に崩れ落ちた。


この大立ち回りの隙を縫って、マツバラは本能的に反対方向へと走り出していた。目の前の惨状を振り返る余裕などとてもない。


――だが、その瞬間だった。

「……捕まえたぜェ!」

空の1点から、破裂感のある声が地上に叩き落とされた。

旋回していた黒い鳥――あのカラスが、すさまじい急降下でマツバラの両肩へと襲いかかり、

鋭い爪が、まるで獲物を逃がさぬ意志そのままに、男の肩をがっしりと挟み込んだのだ。


「――!?」


次の瞬間、カラスの翼が大きくしなり、力強い羽ばたきが空気ごと人を巻き上げる。

羽音が一瞬、すべての音を飲み込んで消えれば、地上の重力から男の体を引きはがすように、

カラスは浮揚する気流に乗って、悠然と上昇していった。


60kgの身体が、まるで重さという概念から切り離されたかのように、空へと持ち上げられていくのだ。

鳥の身体は普段通りのリズムで羽ばたき続けるが、その軌道は不気味なまでに滑らかで、超常的な浮遊感を周囲に刻みつけた。


黒い翼はビルの影を斜めにすり抜け、まばゆい大通りの上空へ舞い出る。

さらに陽光を受けて深い漆黒が一際きらめき、カラスと囚われた男は、ビルの狭間が作り出す鏡面世界を抜けた空へと、揺るぎなく昇っていった。


「やっぱアレも普通のカラスじゃなさそ!」

地上からその影を追うスヌープキャットが、焦りながらも声を上げた。脚はひたすら地面を蹴り続け、獣耳が風を裂いてたなびく。


まさにそのとき、

「えいっ!」

手が空いたばかりの、ミーティスがすぐ戦線に復帰した。投擲された札が迅速に空を駆け、上空のカラスの目元をめがけて直進する。

紙片は1枚、2枚、3枚と連なるように接近し、最後の1枚がぴたりとその顔面へ命中した。


「ゲェッ!見えねっ!」

悲鳴を上げるカラスが、翼を不規則にねじる。バランスを崩したその身体から、マツバラが空中へと乱暴に投げ出された。


「うおおぉおおぉお!!!」

――落下。

男の影が空中を舞い、風を切りながら真っ逆さまに地上へと落ちてくる。


「ダイジョブだよ!ネコ毛のベッドがあるからね――!」

その真下へ、スヌープキャットはスライディングで滑り込んでいく。


全身の毛を限界まで逆立て、ふくらませたその体は、まさに輪郭のギザギザした大福そのもの。

見た目のおかしさが示すとおり、 空気が押し返される音もこの熾烈きわまる戦場には似つかわしくないほど滑稽なものになった。


だが、仕事それ自体には一切の抜かりがない。

すべてを抱え込んだ彼女の体は、人ひとりにかかる着地の衝撃を完璧に吸収していた。


「通りからさ、なるべく離れたところのビルに隠れてて!」

要救助者の着地と同時に”大福”はスピンし、踏み込む足に力を込めて立ち上がる。

目線の先では、マツバラが半ば茫然としてこちらを見ていた。


「なんだお前!?」

おびえ混じりに問う声に、元の姿を取り戻したスヌープキャットは、耳をひとつ、ぴくりと動かした。

「ウチはあの2人の仲間!とにかく走って!」

その真摯なひと言に、マツバラは一瞬きょとんとする。だがすぐに表情を引き締め、無言で背を向けて駆け出した。


ビルの陰にその姿が吸い込まれていくのを見届けて、スヌープキャットはひとつ、深く息をつく。


そして、姉妹であるイムノを相手取り、あの躍動的な剣戟を繰り広げている、オカピの縦長い影を目で追った――。



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