Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 04 11
「なんだぁっ!!?」
鎖ごと、腕が無理につり上がっていく感覚がオカピの獣人を困惑させ――、
「……隙ありィ!」
振りかぶりながら飛び込んだスヌープキャットの拳が、プロディジーの頬を真正面から捉える。
「!」
骨が軋むほどの衝撃が頭部を揺らし、足取りまで乱す。
間髪入れず、膝をついたイムノがガンブレードの引き金に指をかける。その銃口を青く、玄妙に染め上げているのはほとばしる電撃の束であり、
「……ソイルっ!」
放たれたのは、「レモン味のソイル」と彼女が名付けた、黄色い砂の魔法弾である。
刃に込めぬかぎり、これは直撃雷にも等しいエネルギーを備えた電磁誘導式の単発弾として作用し、
スヌープキャットの強打を追うように、プロディジーの腹部へとめり込んだ。
これこそはまさに、先刻の“クレーター”のお返しをする一撃である。
「ぐ、ぼぁッ……!」
雷光の閃きが、獣人のへこんだ胴を一瞬、焼け焦げるような白に染め上げた。
臓腑を圧搾する衝撃は骨の芯まで達し、白目を剥いたその長大な身は、螺旋状の気流を引き連れて吹き飛ばされる。
長く、空を飛び続けた彼の体は、棄てられた車を5台、立て続けにひしゃげさせてなぎ倒しながら、その破片とともにようやく地に伏した。
イムノとスヌープキャット、ふたつの影が相次いで地面を蹴り、直線的に敵へと迫る。間髪を入れず、次なる攻撃を繰り出すべく――。
*
目前で乱打されるブラスターに、子供の喧嘩のような調子で札の塊をぶつけ返しているミーティスは、
そのまま光線を押し切って、また1体の敵を撃破する。
「ロボットの数、だいぶ減ったっぽい……!」
そしてくるりと身をひるがえし、全方位へと警戒の視線を配りながら、長い袖をさっと払い切った。
その先端からは、新たな札の頭がわずかに覗き出ている。
そうして改めて見回してみると、初めて気が付くことがあった――。敵の装甲だったものか、あるいはこの街を形づくっていた何かの一部だったのか、
もはや判然としない黒ずんだ破片の山が、あちこちに累々と横たわっていること。
焦げついた鉄の残骸が煙を吐き、爆炎の尾が今もいくつかの箇所でくすぶっている。
つまり見渡すかぎりの世界の様相が変わり果ててしまったのだが、それと同時に、そしておそらくは、
他ならぬ彼女自身の奮闘によって――いくらかは落ち着きを取り戻しつつもあった。
あれほど絶え間なくひらめいていたブラスターの閃光は、いまはもう目立たず、
耳にこびりつくほどだった金属的な足音も、いつの間にか途絶えていた。
荒れ果てた街を吹き抜ける風も、自然のまま今は感じることができる。
「これだけ安全なら――耳目符も使えるかも……!」
ミーティスは袖の内から、ひときわ細長い1枚の呪符を抜き取った。
「耳目符」。それは、術者の視覚と聴覚を一時的に札へと完全に移すことで、遠方の状況を探索できる特殊な符である。
ただ、その代償は小さくない。使用中、術者本人は目も耳も使えなくなり、現実世界の感覚を一切失うことになる。
状況が不安定なうちはおいそれとは使えない、その性質ゆえに、いままで温存していた切り札だった。
――だが今なら、この瞬間ならば。
ミーティスは指先に力を込め、耳目符をふわりと空へ解き放つ。
呪文が浮き出た紙片は、彼女の掌を離れるとたちまち加速し、風の流れをなぞりながら急激に上昇を始めた。
すうっと、煙突をすり抜ける煙のようにして舞い上がり、ビル群の背よりもさらに高く――。
空の穹窿のただ中。札が静止した瞬間、ミーティスの視界が1遍、がらりと切り替わる。
それは、天空の1点に開けた瞳の座である。
一望されるのは、灰色に煤けた都市の俯瞰図――プロディジーと激突する2人の姉妹、爆炎に囲まれた車列、崩れかけた歩道橋、散り散りになりながら避難を急ぐ人々……。
なかでもひときわ異彩を放っていたのは、ホットショットとハヴォックで巻き起こしているものだろう、はるか遠くにちいさく映る奔流のような戦いだった。
炎と衝撃波が断続的に都市の静寂を裂き、地形すら変形させながら、まるで画面の1点だけが生きているかのように激しく明滅しているのだ。
……そして――なにより大事な情報として、
ドロイドの全勢力が、この直下の通りにだけ集結していることが、あまりにも明瞭に、その景色には刻まれていた。




