issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 05 53
地球帰還までの数日、カルテット・マジコは船団の旗艦を仮の住まいとしていた。
人工重力の効いた清潔な回廊を抜け、はちるは単独で格納庫をうろついていた。
特に用事があるわけでもないが、ただ歩くだけで楽しいのだ。鉄骨と配管が複雑に組み上げられた、広大な吹き抜けの空間。壁際には、流線形の美しいクワウバン製の艦載艇が整然と係留され、その奥には用途不明の立方体コンテナが幾何学的な山を築いている。
その片隅、資材置き場の薄暗い影に、”それ”は転がっていた。
地球製の、大型ピックアップトラックだ。塗装はところどころ剥げ落ち、かつては鮮やかな黄色だったであろう車体は、時を経て、赤みを帯びたひな鳥の羽毛のような、くすんだ色合いに落ち着いている。
ドアの一部には大きな凹みが刻まれ、荷台には赤錆と黒い油汚れがこびりついている。
クワウバンの洗練された、滑らかな金属光沢の機器に囲まれ、このボロボロの鉄塊だけが、場違いなほどに生々しく、泥臭い存在感を放っていた。
「……キミ、かわいいねぇ♪」
はちるは、磁石に吸い寄せられるように近づいた。指先でボンネットをそっと撫でると、
劣化した塗装が粉となって爪に付着する。
運転席のガラス越しに車内を覗き込めば、案の定、そこも時が止まったように荒れ果てていた。
ひび割れたメーターパネル、擦り切れて艶の消えた革巻きハンドル、ひしゃげたままのドリンクホルダー。 刻まれた走行距離は何10万kmに及ぶだろうか。その傷のひとつひとつが、前の持ち主と共に駆け抜けた、かけがえのない時間の軌跡だった。
「ねえ、君さ」
はちるは車に話しかけた。鉄の塊から返事があるはずもないのに、なぜか妙にしっくりくる。
「ウチらが拾って帰ったげる。だって君、宇宙船になりたいって顔してるもん!」
そう呟いた時にはもう、彼女の脳裏には、この車に乗って地球と宇宙を往復する鮮やかなイメージが浮かびつつあった。




