issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 05 52
彼女は、1度だけ深く息を吸い込んだ。
「でも――今ここで、私たちが勝手に地球の代表面して“参加します”とは言えません。
そんな権限、実際のところは私たちにはありませんし――」
と、彼女は、あの会議室での無茶苦茶な論戦を追懐し、ふふと自嘲気味に笑ってみせる。
「――やったらたぶん、地球のみんなから怒られます。
でも、何も聞かなかったふりをして帰るのは、もっと違うと思う」
総督の翻訳機が、かすかに駆動音を鳴らした。
「カルテット・マジコのみなさん。あなたたち個人としての答えを、聞かせてくれませんか」
4人は、真正面からその問いを受け止めた。
「――私たち4人は賛成です。でも、私たちの1票と同じだけの価値がある反対票が地球にはたくさんあります。みんなの意見をちゃんと聞かないといけません。地球に戻ったら、この話を正式な議題として出そうと思います」
おせちは、言葉のひとつひとつを、積み木のよう慎重に置いていく。
「……条約機構がどういうものか、準加盟が何を意味するか。メリットもリスクも、私たちが見聞きしたことをできる限り正確に伝える。そのうえで、地球側がどうしたいのかを、ちゃんと決める場所を作ります」
そして、少しだけ肩をすくめて笑った。
「それが、今の私たちにできる“最大限の誠意”です。……それでどうですか、総督?」
「……誠実な返答だと思います。我々が望むのは、拙速な署名ではなく、熟慮の末の意思決定だ。 あなたがその火種を持ち帰ると言うのならば、それだけで地球にとって十分な前進だと言えましょう」
翻訳機が短く唸り、総督の胸部から、低く響く笑い声が漏れた。
総督は、右側の3本と左側の1本――つまり、その場の全員に向け手を同時に差し出した。4人は一瞬だけ驚いた顔をし、それから手を伸ばし、その異形の指をしっかりと握り返した。
「では、地球文明の代表候補――カルテット・マジコのみなさん。次に会うとき、どのような答えを聞かせてくれるのか、楽しみにしています」
「期待しすぎないで待っててください」
おせちは、少しだけ悪戯めいた笑みを浮かべた。
「こっちはこっちで、なかなか一筋縄じゃいかない、面倒くさい星なので」




