issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 05 18
……地表。ストームジーの権能と気象制御機の力が、未曽有の荒天をねじ伏せ、そこに「凪」の聖域をこじ開けていた。暴威の只中にあるのは、透明な羊水に満たされた繭。その薄皮1枚を隔てた先で、
クラゲの都市群――サブノーティカの全人口を擁す灯火が銀河の星々のように瞬いている。
クワウバン艦隊が、その輝きを守護するように周回し、開かれた渦の門へと切っ先を突き入れた。
艦橋を赤色の警報光が染め上げ、絶叫めいた指令が空気を震わせる。
「右舷、接続シークエンス完了!ハッチ開放まで3秒!」
「サブノーティカ居住区――第2ブロックへの避難誘導急げ!子どもを先に乗せろ!」
「酸素濃度よし、気圧差誤差なし!次の班、乗り込み開始!」
都市の皮膜が弾け、銀色の生きた大河が虚空へ躍り出た。
無数のサブノーティカが、煌めく鱗の帯となって開かれた艦の腹へと吸い込まれていく。
クワウバンの作業員に抱きかかえられた幼子が、頭上を覆う水の天井を見上げた。
その瞳は、恐怖と、見たこともない外の世界への畏敬の間で揺れている。
傍らでは、使い込まれた工具箱を抱いた老人が、何度も首を巡らせ、遠ざかる故郷の摩天楼を網膜に焼き付けていた。
「押さないで、順番です!全員乗せますから!」
「ここから先は艦の乗組員の指示に従ってください!荷物は最低限でお願いします!」
一方、ドームの内部では、残留を選んだ者たちが最後の点検に奔走していた。重要データの転送、
逃げ遅れた者の捜索。誰もが秒針と己の仕事を競い合う最中、繭の外を流れる大気が、
唐突に異なる意志を帯びて震え始めた。
直後、世界が陰る。
水の天蓋の向こう、宇宙の暗がりを背負い、5本の山脈が――「彼」の手が、太陽を透かすように掲げられていた。
サブノーティカもクワウバンも、頭上の翳りを、最初は雲の悪戯だと信じようとした。
だが、光の具合が違う。あらゆる影が、太陽光の照射とは異なる理屈に捕らわれ、
ひとつの方向へ引きずられていく。都市群を包む水球をまるごと貫く光の柱たちは、
天を塞ぐ掌の稜線に沿ってねじ曲げられ、指の隙間から零れ落ちるように揺らぎ始めた。
世界が呼吸を忘れた一瞬。それを引き裂いたのは、艦橋からほとばしった悲鳴だった。
「上層に巨大物体接近!規模、測定不能!空が落ちてくる!」
瞬間、オーシャンマンの腕が、緩慢な軌道で振り下ろされ始める。
それは、ただの平手打ち。だが、その掌には地球5~6個分に匹敵する、星の重みが乗せられている。
標的は彼自身の太腿――すなわち、ストームジーと気象装置が織り上げた、最後の希望が浮かぶ海域。




