issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 05 14
「……惑星が敵なんて、んなの、ヘビメタの歌詞でも聴いたことないぞ!」
焦燥と熱量を推進力に変え、ホットショットは深淵を真紅に染めて突き進む。100km以上に及ぶ水圧の壁など存在しないかのように、紅蓮の推進炎が海を縦断した。通過した跡では海水が瞬時に沸騰し、
白い陽炎の道が穿たれるものの、次の瞬間には周囲の重圧に押し潰され、跡形もなく消え失せる。
臨界点を超え、彼女は空へと弾け飛んだ。急制動をかけた空間で、許容量を超えた熱エネルギーが炸裂する。遅れて生じた水蒸気の爆発が、大気を殴りつけた。
空中で身を翻し、彼女は眼下の景色を睨む。
「――!」
荒天などという言葉では追いつかない世界が、そこには広がっていた。
「水」という物質の定義が、根底から書き換わっている。波と波が触れ合っても、混ざり合いはしない。互いに拒絶し合う固体のように激突し、ガラス細工のごとく砕け散るのだ。渦は巻く端から引きちぎられ、その断面から新たな混沌が産み落とされる。遠方で泡立つ白波は、さながら隆起する山脈となって嵩を増し続けていた。
そして、彼女は目撃する。
水平線が、溢れんばかりの音に支えられながら隆起した。星の髄、億年の時を静寂の中ですごしていた地殻そのものが、深海という布団を跳ね除けて起き上がろうとしている。
億、兆、京、垓――数字など意味を成さぬ星の重みが、水を押しのけて天へ雪崩れ込む。世界を引き裂く岩の亀裂が、見えざる引力に導かれて閉じていく様は、傷が癒える早回しの映像に似ていた。
風雨ではなく、星の胎動によって削ぎ落とされた岩盤が、滑らかな輪郭を描き出す。それは、ひとつの「顔」だった。頬に刻まれた縞模様は、この星が刻んできた時間の年輪。
持ち上がる岩肌から、無数の島々が塵のように零れ落ちる。海面を叩くそれらの飛沫さえ、この桁外れのスケールの前では、あまりに緩慢で、矮小な点描に過ぎない。
呼応して、2本の岩柱が雲を突き破る。まとわりつく海水は、さながら大瀑布。天を掴もうと伸びるその5指は、空の高ささえも窮屈そうに押し広げていく。
あまりの光景に、脳の処理が追いつかない。1分にも1時間にも感じられる主観時間の歪みの中で進行していく。
不意に、ホットショットの理性を繋ぎ止めていた留め具が、音を立てて弾け飛んだ。
「……!」
背筋を駆け上がる悪寒。振り返れば、大陸側でも同様の異変が進行している。地平線が魚の鱗のようにめくれ上がり、地表は層ごとに剥がれて、天を塞ぐほどの板となり、どこまでも彼方に向かって落ちていく。1枚1枚が、この世界を歩かせる脚部として、再接合されていくのだ。




