issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 05 11
一方で、白亜の広間は崩壊の時を迎えつつあった。クワウバン総督を包む潜水服が、赤色の明滅を激しく繰り返す。彼は思考入力のみで軌道上の本隊へ信号を叩きつけた。
「緊急支援要請!座標、当海域全域!即時展開可能な全火力を集中させろ!」
ストームジーは、ストームジーは軋む結界を両腕で支え、リキッド・ソーズへ怒号を浴びせた。
「……リキッド・ソーズ大提督!緊急の打診がある。君たちの気象兵器と、私の権能を同調させる!」
「はあ!?あんた、あれは使うなって――」
「状況が変わった!ふたつの力の相乗効果で、この都市群ごと急ぎ海底から浮上させる!何もしなければ、このままで全滅だ!」
彼は息継ぎもせず、明滅するクワウバン総督へ顔を向けた。
「総督!貴殿にも要請する!軌道上に待機させている艦隊だ!直ちに降下させ、サブノーティカの民を収容してくれ!全員を避難させるのだ!」
だが、総督は潜水服の中で、実にすまなそうに首を横に振る。
「お断りします」
それは、簡潔ながら断固たる拒絶だった。
「なっ……!?」
ストームジーとリキッド・ソーズが同時に絶句する。
「なぜだ!?スペースは十分にあるはずだ!あれだけの大艦隊だぞ!」
「ええ、物理的なスペースはございますとも……」
総督は事務的な口調で答えた。
「ですが、法的なスペースがございません」
「は?」
「本船の登録区分は『資源探査船』でございます。『宇宙貨物輸送法』第402条に基づき、検疫未済の『第3種知的生命体』……すなわち彼らを搭乗させるにあたっては、6周期前からの申請、および3段階の厳正な審査が必須となります」
「今は緊急事態だぞ!!星が潰れようとしているんだ!」
横で聞いていたリキッド・ソーズが、呆れたように口を挟む。
「うわぁ、ドライだねぇ。全身、塩水に浸かってるってのにさ!……ねえストームジー! こいつ放り出してくるから、お手数だけど、バリアにすこぉ~しだけ穴を開けといてくれるかい?」
リキッド・ソーズは返事も待たずに台座の気象装置へ手を伸ばした。
指先が触れた瞬間、複雑な軌道を描いて回転していた真鍮色のリング群が、一斉に水平方向へと折り畳まれていく。
カシャ、カシャ、
と小気味よい音が響き、球体だったシルエットがあっという間に1枚の円盤へと姿を変える。
バアァアアアアア……
中心に封じられていた『種子』が殻を破った。溢れ出したのは、網膜を焼くような鮮烈な桃色の光芒だ。
白亜の広間が、毒々しいネオンカラーに染め上げられる。装置が重低音を震わせ、都市そのものを持ち上げるためのエネルギーが駆け巡り始めた。
クワウバン総督は、鼻先で輝く超兵器の光と、自分を排除しかねないリキッド・ソーズの凍てついた眼差しに射抜かれ、潜水服の中で硬直する。機械仕掛けの補助頭脳が、損得の勘定を光の速さで書き換えた。
「すみませんでした、お待ちください!」
彼は慌てて手を振った。
「『人道上の対応』あるいは『緊急避難』……そういった、法を解釈する上で非常に便利な概念が存在することを、失念しておりました!」




