issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 05 07
それを受け、おせちが再び毅然として口を開いた。
「ねぇオーシャンマン。君がまどろみの中で聴いた音――あれが心地よかったのなら、君自身がそれを体現してみるべきだよ。君も、調和ってやつに挑戦してみてほしい――」
「――調和っていうのは、不純物を濾過した蒸留水に浸ることじゃない。違う色、違う音を排除せず、あえてぶつけ合い、重ね合わせる試みのことさ――」
「――すくなくとも私たち4人が思う『調和』っていうのは、そういうもの。
本来なら、宇宙中の誰とでも出来たらいいなって思ってるものだよ。……もちろん、上手くいかないことの方が多いけど――」
「――でも、挑戦する気持ちだけは忘れない。何度失敗してもね。不格好でも、そこからしか新しい音楽は生まれないんだから」
4人は、肩を寄せ合って頷く。
《……望まぬものとの共生、その苦難が我に何の利をもたらすというのか》
惑星の拒絶が、重力波となって大気を圧迫する。
《こやつら微生物に、我を拡張し、益する権能など存在しない。ただ寄生し、地熱を啜り、
体を食い荒らすのみ。 利害の一致せぬ寄生虫を抱え込む道理は、我が星の法則には示されていない》
「利がないなら、切り捨てるの?君の体には、もう彼らが息づいている。彼らが掘った穴も、
建てた塔も、もう君の一部だよ」
《それは傷だ。治癒すべき汚点にすぎぬ》
「違うよ。それは“変化”さ」
おせちは怯まない。星の理屈に対し、人の理屈を突きつける。
「君はずっと独りで眠っていた。でも今は、彼らがいるから、怒ったり、戸惑ったり、こうして私たちと話したりできている。何かを拒絶することさえ、じつは、ひとりじゃできない特別なことなんだよ?
他者がいるってことは、ノイズが混じるってこと。でも、そのノイズがない世界は、ただの『死んだ静寂』と同じだよ。君は、せっかく目覚めたのに、また独りぼっちの石ころに戻りたいの?」
《……静寂を死と呼ぶか。だが、雑音を調和に昇華する力が、この脆弱な生命どもにあるとは思えぬ。弱き者が強き者に寄生し、ただ搾取するだけの関係を、我は調和とは認めない》
「強さとか弱さとか、単純な話じゃないよ!補い合うことだ。 君は星だから、その軌道から1歩も動けない。でも、君が持っていない『手』や『足』に、彼らがなるかもしれない。君ひとりじゃ届かない宇宙の果てへ、彼らが連れて行ってくれるかもしれない。お互いを受け入れ合えばね。 未来の可能性を、
今の不快さだけで摘み取っちゃダメだ」
《可能性……不確定な未来のために、現在の不快を許容せよと?――》
惑星の思考が、一瞬だけ沈黙しる。直後、海の揺らぎは、明然として1段階激しくなった。
《よかろう。ならば証明が必要だ。そなたらが語るその『可能性』とやらが、
我が拒絶の意志――この星の質量すべてを覆すほどに強靭であるというのなら――》
《――ならば、『異なる色、異なる音を排除せず、あえてぶつけ合う選択』の果てにある、
ひとつの調和の形を示す》
「それは、なんだい?」
《我を打倒し、敬意を力づくで勝ち取るがいい。小さき者どもよ――》




