issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 04 21
あまりに突飛な彼の告白が、リキッド・ソーズとクワウバン総督の思考を一瞬、停止させた。
その慟哭に、最初に反応したのはリキッド・ソーズだった。
彼は、大げさに肩をすくめると、芝居がかった声でせせら笑う。
「ははっ、思考する惑星……ねぇ。いやはや、追いつめられると人ってのはどこまでも詩人になるものだね、ストームジー殿。そりゃ聞く分には素敵なおとぎ噺だと思うけど、あいにく、僕らは現実主義者でね」
クワウバンの翻訳機も、同じ色合いの合成音声を響かせた。
「ええ、検証不可能な仮説です。交渉を有利に進めるための、欺瞞と判断します」
彼らはストームジーの告白を、単なる出まかせとして一笑に付した。 あまりに無慈悲な光景。
蚊帳の外へ置かれたカルテット・マジコは、なすすべもなく立ち尽くす。
アシュリーの拳は怒りに震え、おせちは消失寸前の選択肢から次なる1手を強引にたぐり寄せようと、
思考を空転させながら唇を噛み締めた。
失意の底にて、ストームジーが動いた。 交渉テーブルを離れ、
広間奥に鎮座する気象兵器へ一直線に歩を進める。
「……とにかく、これだけは破壊させてもらう!」
激情に駆られた神の進路を、2名の護衛兵が即座に遮断した。 交差する三叉槍の燐光が、物理的な壁となって立ちはだかる。
「おい、口を慎め」
兵たちの前に立ったリキッド・ソーズの声が響く。先刻までの軽薄さは消え失せ、
白亜の広間全体を圧迫する、鋭利なドスの利いた響きへ変貌していた。
「それをやったら戦争だぞ? 管理霊殿」
彼は4人の少女と、硬直するストームジーを交互に見据える。
「君1人で、僕らサブノーティカと、クワウバン両文明の大艦隊を敵に回す。その覚悟はあるのか?」
殺気に満ちた空気に、さなとはちるが息を呑む。 おせちは最悪の事態を回避すべく声をかけようとした。だが、ストームジーの決意はすべてに勝った。
「我が一身の行く末など、もとより問題ではない!」
彼はリキッド・ソーズを正面から睨みつけ、言葉を絞り出した。
「ただ、摂理の末端としてこの世界に舞い降りた者として、起こり得る最悪の可能性だけは、断っておかねばならない!」
……彼らの議論と敵意の応酬に、ずっと耳を傾けていた存在がいる。
――この惑星そのものだ。
半ば覚醒しかけていた知性は、自らの薄皮の上で繰り広げられる、あまりに身勝手な生命の在り方を、
純粋に学習し続けていた。そして、この瞬間、最後の合理的な結論を下す。
この、やかましい不協和音を奏でる、全ての存在を、ことごとく排除すると。
――瞬間。
星の核から直接放たれた意志ある波動が、強烈な海震となって深海を襲った。
総督の潜水服が激しい振動にアラートを発し、リキッド・ソーズが初めて余裕のない表情でテーブルを掴む。クラゲ都市のドーム全体が、まるで薄いガラスのように激しく震え、建造物を支える骨格がきしむ音を立てた。惑星自体による明確な「拒絶」の脈動が、都市の中を猛烈な衝撃波となって吹き抜けていく。
激しい振動の只中で、ひとつの声が響いた。水や空気を震わせるのではない。すべての生命の、魂の芯に直接叩きつけられる、原初の声だった。
《――静粛に》




