issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 05 01
CHAPTER 5
尽きることなき轟鳴が、この海底世界を満たしていた。
惑星の核に宿る意志が、全方位へとひとしく伝播し、
そこにいる者たちの内臓を、直接、わしづかみにするような圧を与える。
それは、声ではない。意志そのものの響きだ。
あまねく生命にひれ伏すことを強いる、絶対的な音圧だった。
広間に立つ者たちは、膝を折りながらも、その「発信源」を捉えることができない。
見上げるべき天も、踏みしめるべき大地も、海水で満たされた中空も、すべてが同じ強度で震え、
等しく“声”を発していた。
方向感覚を奪われた状態は、ただの振動とは比べ物にならないほど人間の神経に負担をかける。
誰もが、この筆舌に尽くしがたい圧迫から解放される“次の瞬間”を、
逃げ場のない姿勢のまま待ち望むしかなかった。
その中で、最初に声を絞り出したのはリキッド・ソーズだった。
波動に翻弄されかけた身を立て直し、彼は狼狽を隠せぬ声を漏らした。
「……なんだ、この声は……!?」
その動揺に呼応するように、
総督が着込む潜水服が甲高い警告音を発する。
胸部の翻訳装置が、発声の変換とは別の無機質な合成音で分析結果を読み上げる。
《警告。高エネルギー思念波を探知。波形照合……パターン該当なし。発生源……特定不能。受信方向……推定『全方位』》
機械的な報告が終わった直後、翻訳機は、総督自身の動揺した声を再生した。
「なんと……!我々の理解を超えた存在だ!」
「愚か者どもが……!」
ストームジーが放った声は、交渉相手に語りかけるものではなかった。この深海を震わせる、魂からの慟哭だった。
「貴様らが『気象装置』と呼ぶ、この道具……!それで環境を無造作に弄んだ結果、どうなったかがようやく分かったか!? 貴様らは、この星の覚醒を意図せず、そして最悪の形で『加速』させてしまったのだ!本来、穏やかな眠りの中ですくすくと育つはずだった子を、 無理やり叩き起こし、その誕生を、苦痛と憎悪に満ちたものへと貶めてしまったのだぞ!」
そして彼は、彼らには目もくれず、両腕を広げて真正面を睨んだ。
「鎮まりなさい、アブズ!我はカイルス・ヴォー。そなたが声を得る以前より、そなたの存在を知る者である……!」
発せられた言葉は、その場の誰ひとりに向けられたものではない。
創造主が被造物へと下す、厳粛な宣言そのものだった。




