issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 04 18
ストームジーが放った言葉は、おせちの背筋を凍らせた。
(待ってストームジー、それは正直すぎる――!)
「設計図に描かれた、別種の生命」――眼前にいるのは、この星の絶対的な支配者、リキッド・ソーズだ。海底都市を築いた単一種族の指導者が、自分たちの領域へと意図的に「競合相手」を誕生させる計画を、快く受け入れるはずもない。そんなことを口にすれば――いや、すでにしてしまったが――交渉は即座に決裂し、最悪の場合、ストームジーも、彼に同行する自分たちも「駆除対象」になりかねない。
――止めなければ。
おせちはテーブルから身を乗り出し、彼の言葉へ割り込もうと口を開く。
だが、ストームジーの鋭い一瞥が、彼女の動作を物理的に縫い止めた。瞳に宿る「介入無用」の意思。
おせちはそれを余すことなく読み取る。
……そうだ。嘘で塗り固めた交渉が破綻した今、この神が真実を語るのを止める権利など、
自分にはない。彼女は開きかけた口から無言の気泡を吐き出し、身を乗り出した姿勢をゆっくりと席へ戻した。
静けさが白亜の広間を圧迫する。
リキッド・ソーズは頬杖を解き、芝居の幕引きを演じるごとく、大げさに残念がってみせた。
「――これで確認は取れた。君たちは僕らの”友達”にはなれない」
瞳から好奇の色が消え、支配者としての冷徹な光が宿る。ストームジーによる「異種生命の創造」宣言は、サブノーティカにとって明確な宣戦布告に等しかった。
ここでふたたび、おせちがすっと席を立つ。視線はリキッド・ソーズではなく、傍らに控えるクワウバン総督ゼ=ラクス・ヴァルへ向けられていた。
「総督。この場をお借りして、あらためてクワウバン文明と我々地球文明とで、2者間交渉の機会をいただけないでしょうか?」
その、あまりに唐突な「交渉相手の乗り換え」。リキッド・ソーズが面白そうに眉を上げる。
クワウバン総督は潜水服越しに、わずかにおせちへ向き直った。翻訳機が無音で起動し、皮肉な響きを伴って合成音声を発する。
「ほう。それは、『地球表面の開発権』について前向きなご回答をいただける、という前提の交渉でしょうか?」
「……!」
放たれた問いに、おせちは唇を噛み、着席を強いられた。
(……サブノーティカは、クワウバンへ『地表』の開発権を譲渡したんだ……)
総督の言葉は、直近で成立した取引を踏まえた痛烈な当てこすりだ。
地球に同等の「実利」を提示する力などないと知った上で、交渉の申し出を嘲弄し、にべもなく拒絶してみせたのである。




