issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 04 16
絢爛たる熱帯魚の群れが、あてどない軌道で回遊する広間の中央。波の彫刻が施された石卓にて、
リキッド・ソーズは肘を突き、手を組んで5人を迎え入れた。
その傍らには、クワウバン総督ゼ=ラクス・ヴァルが控えている。皮膚を持たぬ異形の肉体は、
謎の液体で満たされた硬質の潜水服に包まれていた。輪郭へ完璧に適合した、第2の皮膚ごとき装備である。
総督は背後で手を組み、微動だにせず全体を監視する位置に立つ。5人の着席を見届けると、
感情の一切を読み取れぬ動作で、穏やかに1礼してみせた。
ストームジーは、大提督の傍らにあるクワウバン総督の存在へ、
今この瞬間初めて気づいたかのように声を荒らげる。
「リキッド・ソーズ大提督。これはどういうことだ。クワウバン総督が同席されるとは聞いていない。我々と君たち、2者間での対談という約束ではなかったか?」
動揺を露わにした声。アシュリーとおせちは目を見交わす。この1事のみを根拠とするわけではないが――リキッド・ソーズの天秤が、すでに9割9分クワウバン側へ傾いていることは明白だった。
リキッド・ソーズは、ストームジーの詰問を待ち構えていたかのごとく、人を食った笑みで受け流す。
「おや、これはまた異なことを?……なぁ、ミス・スムージー……じゃなかった、ストームジー、これで、
君が最初望んでいた通り、『3文明』の合同会談が始められるンじゃないかぁ♪」
リキッド・ソーズが放った痛烈な皮肉が、白亜の広間に響き渡る。
「まずこっちからいいかな?”これ”なんだと思う?」
リキッド・ソーズは部屋の奥、彼の背後の台座にそびえる不可思議な物体を指さす。
そのオブジェの姿は、現実の理に収まりきらぬ強い幻想性を帯びていた。
真鍮めいた光沢をまとった環状のフレームは、天球儀の優雅さを保ちながらも、
その内部構造には時計機構の粋を凝縮している。歯車群が幾層にも精緻に噛み合い、
わずかな振動とともに音もなく回転していた。
それらの輪列は外部の支えを持たず、中心部がくぼんだ銅色の台座――表面に、露天掘りのごとく文字列状の浮彫を帯びた台座から、ふわりと乖離して宙に留まっている。
天井からの光を受け、とろみ上がる表面には、リングの自転に合わせて細密な刻印が常に晒され続けていた。中心部には、封じられた種子を思わせる柔らかな外殻があり、綻びかけた裂け目の奥では、
苺飴を溶かしたような艶やかな紅の珠が脈動している。その輝きは物理法則よりも儀式性を思わせ、
装置全体が、科学と魔術の境界で呼吸しているかのようだった。




