issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 04 15
「……おいおい、嘘はいけないなあ、吉濱おせち殿」
リキッド・ソーズが、少女の華奢な肩をポンと叩く。
「君の『クワウバンが僕たちを見捨てる』なんて話、完全に口から出まかせじゃないか?」
反論の言葉は出てこない。万事休すであった。
(……どうする? 交渉相手を変える?いや、でもクワウバンにもう私たちと組むメリットなんて……)
絶望的な状況下、頭脳は新たな活路を模索して空転を繰り返す。
リキッド・ソーズは、半泣きにも見える悔しげな沈黙を、意外そうに見つめていた。追及する口調をふっと緩め、初めて出会った生物を観察する子供のごとき純粋な好奇心を瞳に宿して問う。
「でも、なんでそんなに必死なんだい?こんな、バレたら取り返しがつかない場面で嘘をついてまでさ?」
おせちは、すべてに窮したまま何も答えることが出来なかった。
*
地球とサブノーティカの対談の場として、あらためて指定されたのは、この宮殿とは別の敷地にある、白亜の列柱が並ぶ広間だった。
そこは、古代ギリシャ神殿を思わせる開放的な空間だ。天井を支えるのは、無垢な白で磨き上げられた巨大な柱群。1本1本がサブノーティカの女形を精緻に象っており、音のない祈りを捧げているように林立している。
床面は、1枚岩のような滑らかな石材でできていた。白い枠と琥珀色の幾何学模様が、どこまでも規則正しく繰り返されている。広間の中央には、同じ素材で作られた白い石製の大テーブルが1台置かれている。脚部や机の縁には、波の運動を固定化した精巧な彫刻が施されていた。
列柱の間には壁がなく、すべて開口部となっている。そこからは、先ほどまで5人が移動してきた水中都市の青い景観が、遮るものなく広がっていた。ビル群の間をたゆたう海藻や、遠くを行き交う生物の燐光が、この広間に天然の借景をもたらしている。
元の姿に戻り忘れているのか、それとも本当に外見になど頓着しないのか、
相変わらず女人の姿を保つストームジーを先頭に、5人は席に着く。隣に座るおせちは、空間に満ちる開放感こそ、先方が誇示する「余裕」の表れだと直感していた。




