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カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
Issue#04 I I I I Tales from Topographic Oceans

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issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 04 06

4人が案内された空間は、ホテルの1室とおぼしき場所だった。「おぼしき」という推定に留まるのは、そこが地球の建築様式とは隔絶した、海底人の理想のみの追求に終始する空間だったからだ。


たしかに、机やベッドに相当する機能はある。だが、それらは木材や金属の家具ではない。極彩色の貝殻、研磨されたサンゴ片、白く輝く魚骨――そうした素材が、生きたまま組み上げられたかのようにパステルカラーの有機的な曲線を描いている。家具というよりは、惑星自体が見る夢が結晶化した造形物と呼ぶべき代物だった。


壁や天井は、巨大な骨か石灰質の何かがなす曲線状の柱梁で構成され、都市の景観を捉えた窓枠は、種々の貝殻からなる茨のごとき造形物である。ベッドとは、触手でもって体を優しく包み込む機能をもった、四角い大型のイソギンチャクのことであり、エアコンに代わるエラのような装置が、


新鮮な潮香を伴う水をいつまでも循環させている。冷蔵庫は、どこからでも膜の中に手を突っ込めて、

しかも破れることがない、内部に低温の水を湛えた魚卵状の大きな袋で、備え付けのパソコンとは、

どうやら水晶化した海綿を指すらしい。半透明な内部で、神経回路の淡い光が明滅を繰り返している。


すべてが深海の理によってデザインされた、機能的かつ幻想的な調度品。内装の色彩は部位ごとに奔放でありながら、部屋全体がひとつの生命体の内部であるかのような奇妙な調和に満ちていた。


「……へえ、悪くないじゃん。ずいぶん凝ってる。記念に1発、なんか焼印でもつけとくか?」


アシュリーが、有機的な壁の装飾を指でなぞりながら言う。


3人が同時に仰天し、おせちが即座にその口を制した。

「アシュリー!案内の方がまだいらっしゃる前で、なんてこと言うの!」


彼女は音もなく待機していた魚人の案内人へ向き直る。

「失礼しました!……それで、大提督リキッド・ソーズ氏との対談は、すぐにでも可能でしょうか?」


「いいえ。会談は、クワウバン代表団が到着次第、開始される手はずとなっております。それまで、どうぞこちらでごゆっくりとおくつろぎください」

後頭部より垂れるヒレが長い後ろ髪に見える、気品ある女性の案内人。

彼女はアシュリーの不遜な物言いなど聞こえなかったかのような態度を保ち、完璧な礼節をもって応対した。


案内人の丁寧な言葉とは裏腹に、おせちの背筋には冷たい予感が走る。

「あの!――」

おせちの呼びかけは、去っていく彼女に届かなかった。獰猛な魚の、オレンジ色の顎部をそのまま使った装飾がかけられる、魚骨を編んで作られた扉が、彼女たちの二の句を跳ねのけるかのように自動で閉まっていく。


(……その"形"になるのが、1番まずいんだよなぁ……)

取り残されたおせちは、この摩訶不思議な客室の中で、心底困った風に頭を掻いた。


「クワウバンが集まってから」――その一言が、最悪の展開を示唆している。

この惑星アブズの、押しも押されぬ「真の原住民」であるサブノーティカの存在が明らかになった今、

惑星の管理霊であるストームジーと、「偽の原住民」カルテット・マジコの勝利条件は一変している。


クワウバンと第1発見の権利を争う法廷闘争には、もはや何の意味もない。

クワウバンに、地球人と交渉する意味はもうどこにも残されていないのだ。

彼らは真の原住民であるサブノーティカとだけ、惑星開発の利権交渉を行えばよい。


この場合、おせち達が生き残る道はひとつ。クワウバンという交渉のライバルが到着する前に、

サブノーティカと1対1で対談し、「地球と手を組むことのメリット」を先に提示し、彼らを懐柔すること。

だが、案内人の言葉が事実なら、その戦略はすでに破綻していた。


この部屋は、交渉のテーブルに着く前の「待合室」に過ぎない。

ややもすると、クワウバンはすでに、サブノーティカと"簡単なお話"を済ませている可能性さえあったのだ。


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