issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 04 03
「逃がすか!」
ホットショットの咆哮が飛ぶ。 4人は逃げる背中を追い、一気に加速した。揺らめく光の膜が身体を迎え入れ、少女たちは生ける都市の内側へ突入する。
薄膜を突き抜けた瞬間、世界の物理法則が一変した。
全身を締め上げていた途方もない水圧が消え失せる。絶対の暗黒は払拭され、代わりに、
生暖かく穏やかな水の揺らぎが彼女たちを包み込んだ。耳には、低く心地よい都市クラゲの鼓動が響き渡る。
眼前に広がる光景に、5人はただ立ち尽くしていた。
広大な空洞の中心に、自ら発光する都市が鎮座している。
サンゴや太古の生物の骨格で組み上げられた建造物が、滑らかな曲線を描きながらどこまでも立ち並ぶ。
無数の窓からこぼれる青白い光、金色の筋。それらが、都市全体がひとつの器官のようにゆっくりと脈打っていることを教えてくれる。建造物のあいだを、燐光をまとった生物の船団が、音もなく往来する。
……この惑星が示した、噴火という名のあまりに苛烈な拒絶。皮肉にもその殺意が、彼女たちを誰も知らなかった海底文明の玄関口へ導いたのだった。
壮大にして類稀な光景を前に、戦いの興奮も故郷への想いさえも忘却し、5人はただ立ち尽くす。
だが、束の間の感動は、都市全域に響く警報によって無慈悲にも引き裂かれる。
直後、ひときわ高くそびえるサンゴの巨塔に異変が生じた。塔の側面に散在するハッチが一斉に開き、
内部の光が噴き出す。
吐き出されたのは、数1000に達する魚人兵の群れと、サメの骨格を利用した戦闘用小型艇の群隊だった。船団は瞬く間に展開を完了させ、周囲の水域を埋め尽くす。
軍勢の中心には、ひときわしなやかな体躯の藍色の魚人が控えている。
サブノーティカが誇る無敵艦隊の長、大提督「リキッド・ソーズ」。
膨大な兵力を従え、彼は侵入者たちめがけて、滑るような軌道で距離を詰めてきた。
「結局、敵の数はいくつなんだ?」
「5名です、大提督!後続部隊は確認できず!」
「……あのスカウカフを屠った連中だぞ!油断は禁物です、タイド・ターナー!」
「ふむ……しかし、あの嵐からも生き延びたとなると……」
側近たちが、めいめいの称号で呼びかけ、口々に進言を飛ばす。
だがリキッド・ソーズは、その麗しい貌に、状況を心底楽しむごとき飄々とした笑みを浮かべるのみだった。
「まあまあ、落ち着きたまえ、諸君。僕にとっておきの考えがある。任せておけって」
キザな仕草1つで、側近たちの緊張は別種の戸惑いへと変質する。




