issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 04 01
そこには、クラゲが鎮座していた。大規模な構造物を内包する、規格外の巨影である。
傘は直径数kmに及ぶ壮麗なドームを形成し、半透明の皮膜越しには生命活動の証たる無数の光が明滅している。内部には枝分かれした構造物が林立し、その合間を小型生物が規則正しく行き交う。
下部から伸びる無数の触手は、幾億もの光点を纏い、深淵へと優雅に垂れ下がっていた。
驚くべきは、これが単体では存在しないという事実だ。 何10体もの群れが、圧殺の深海に広大なコロニーを形成し、無音のまま漂っている。
未曽有の光景を前に、少女たちは呼吸さえ忘れ、立ち尽くすしかなかった。
生物が織りなす光の集積。惑星の底で脈動する、偉大なる同種生物の共同体。
幻想的な光景の只中にあって、おせちの分析思考だけは冷徹に稼働を続ける。
ゼリー状のドーム内を行き交う小型生物の規則性、サンゴや貝殻に似た構造物の、整然とした配置、
そしてクラゲ自体が放つ、明らかに制御されたエネルギーのパターン。これらの要素は自然現象の枠を超え、作為的な構築物であることを示唆していた。
「――もしかしてこれって、街じゃない!?」
おせちの声が、全員の意識に突き刺さる。刹那、世界の意味が反転した。
言葉を合図としたかのように、ちかくに浮かぶクラゲの都市――その、透明かつ硬質な傘の一部が突き破られる。内部から100近い影が、統率の取れた動きで一斉に飛び出した。
青い肌。水中に適応した、しなやかで強靭な筋肉。 深淵を見通すための、大きな瞳。
手には、光るサンゴを削り出した鋭利な三叉槍を携えている。 魚人――そう形容するほかない、
けれども高度な知性を宿した者たちが、完璧な陣形を組んで5人を包囲した。
彼らの挙動に歓迎の色はない。あるのは敵意と、領域を侵犯する者に対する冷徹な警戒心のみ。
黒い瞳の奥底で、殺意に近い光が揺らめいていた。
「おい、ストームジー!」
膠着を破ったのはアシュリーの怒号だ。 彼女は眼前の脅威から視線を切り、背後の神へ激情を叩きつける。
「どういうことだよ!?この星には、人間はいないんじゃなかったのか!?」
問いかけに対し、ストームジーはただ呆然と光景を見つめ返すことしかできない。
「……私も、理解が及ばない」
この星の管理者が初めてみせた、剥き出しの困惑。吐露された声は、深海の絶対的な無音の中、不吉な響きを帯びて重く波及していった。




