issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 42
スカウカフが沈んでいった暗黒の深淵に、平穏が戻る。戦いの様子を遠巻きに窺っていた巨魚たちが、恐る恐ると、しかしどこか敬虔な様子で、ふたたびび姿を現した。惑星の頂点捕食者を、赤子の手をひねるように屠ってみせた、この小さな光の存在たち。巨魚たちの瞳に宿るのは、もはや好奇心ではない。
深海の旧支配者たちが、畏敬の念とともに左右へ道を譲る。 生態系の序列は暴力によって書き換えられ、広大な回廊が彼女たちのためだけに切り拓かれた。
音のない道行きが続き、戦いの熱は冷たい海水にさらわれていく。
後に残ったのは、どこまでも続く暗黒と、何も起こらないという事実が突きつける虚無だけだった。
その、手触りのある虚空の中で、次第に別の感覚が姿を現してくる。
水圧だ。物理的な数値を凌駕した圧迫感。惑星自体が、深奥へ侵入した異物を押し潰そうとする明確な意志の力。呼吸はできても、魂の芯まで浸透する星の質量は防ぎようがない。
この星の正体とは、無限に堆積した水の重みそのものだった。自らの存在が軋みを上げる音とともに、
4人はその、抗いがたい事実を肌で理解していく。
深度90km。水圧、およそ10000気圧。1㎠あたりの面積に10tの負荷がかかり、中実の鉄骨さえ飴細工のごとく捻じ曲がる、絶対的な圧殺領域。常人の体であれば、肉塊としての己を保つことさえ許されぬ死の世界である。
すべてを圧し潰す闇の底で、彼女たちの網膜は信じがたい光景を捉えた。
遥か下方に、いくつもの微弱な光の膜が、まるで深海に浮かぶオーロラのように淡く、そして広大に揺らめいていたのだ。ストームジーが先頭に立つまま、一行はそのうちのひとつの真横まで、吸い寄せられるように潜り続ける。
そして、理解が追いついた時、彼女たちは息を呑んだ。




