issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 39
「――!?」
暗闇の底が、噴出する泥のごとく脈打つ。周囲の水塊が一斉に上方へ奔り出した。
数100mを超える流体の壁が直立し、熱湯のごとき温度を伴って5人の足元を吹き抜けていく。
巨魚たちは即座に反応した。群れを支配していた雄大な秩序は崩壊し、
尾を激しく打ち鳴らして散開する。衝突する巨躯と渦が干渉し合い、衝撃波が複雑な襞を刻んだ。
「いかん、全員、備えろ――!」
ストームジーの警告より早く、5人の身体は暴虐な潮流に翻弄され、引き裂かれんばかりとなる。
ホットショットの炎は渦中で真上へ伸び、構えたイムノの刃が表面に光の帯を流し続ける。
ミーティスがスヌープキャットの手を掴もうともがくが、視界は泡と泥のごとくたわんだ水流に埋め尽くされ、互いの輪郭すら消失する。
「……言わなきゃ来なかったのに!お前に教えときゃよかったよ、地球には『噂をすれば影』ってことわざがあるのをな!!」
ホットショットが悪態をつく。
直後、物理的な質量をもって闇が引き裂かれ、スカウカフの巨体が顕現した。
鯨とも竜ともつかぬ威容。強いて言えばモササウルスを連想させる流線型だが、スケールは地球の古生物学が想定する範疇を遥かに超えている。側面に連なる無数のヒレは鋭利な大地の断片のごとく広がり、
体表には古代の大陸を思わせる断層が走っていた。
眼窩には5つの紅い眼光が並んで光の尾を引き、エラが呼吸を刻むたび周囲の水が膨張する。
尾鰭が水をひと打ちすれば、爆発的な加速に合わせ、足下の深海に衝撃波の竜巻が巻き起こった。
全身は光を吸い込む黒曜石の鱗に覆われ、頭部は巨大な顎そのものと化している。万物に牙を剥き、
噛み砕くことのみを唯一絶対の生存戦略としてきた、惑星最強の捕食者。
ストームジーは体を突き上げる水流に抗い、
「□□□□□□□□□□――ッッ!!!」
と喉元から波紋のごとき呪言を放つ。
単一の個体へ収束させた絶対順守の力は、しかしスカウカフの皮膜に弾かれ、虚しく拡散した。
周囲へ退避した巨魚たちの瞳が、畏怖と好奇を同時に映し出す。
5つの、あまりに微小な標的へ向け、ゆっくりと開かれる口腔。それは星の根底にわだかまる悪意が、
顎と、列をなす鋸歯の形をとって押し寄せる光景に他ならない。
めくれ上がるように開口する顎板。口角に衝突した水流は両断され、
輝くプランクトンの死骸が無慈悲な渦へ巻き込まれ、千々に引き裂かれていった。




