issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 37
生物発光の密度は高い。光の粒子の只中を潜り抜ければ、輝きは彼女たちの衣服や髪に触れ、
銀砂のごとく散っていった。
光帯の向こう側で、かつて目撃した“触手クジラ”の近縁種とおぼしき巨影が、悠々と身を翻す。
全身に密生するイソギンチャク状の触手、そして黒と橙の縞模様が、水圧の層をたわませる。
周囲を取り巻く海水は、巨体の挙動に呼応して層ごと震えた。
この個体が持つ触手の先端は、モウセンゴケのごとく球状に膨らみ、内部へ淡い橙光を宿していた。
無数のランタンが中空を漂うがごとく、海底の闇を点々と照らし出す。
雄大な泳ぎが光の線を引くと――輝きに誘引された微細な魚群やプランクトンが寄り集まり、吸い込まれるように消えていく。
捕食の瞬間は視認できない。ただ、光の粒がひとつ、またひとつと無音で消失し、
暗黒が跡地を閉ざしていくのみである。
――深海の生態系は、捕食者と被食者が灯す光の連鎖によって成立している。
眼前に広がる光景は、異界の夜空を天地逆さに覗き込むような、筆舌に尽くしがたい錯覚を強いるものだった。
目測1kmにも及ぶリュウグウノツカイのごとき巨影が、一行の脇を悠然と横切っていく。
圧倒的な至近距離ゆえに、視界を埋め尽くす銀鱗の列と、巨躯が巻き起こす水流の圧は、
永遠に途切れぬかもののように感じられた。
「……っ」
ミーティスが、反射的にスヌープキャットの腕へと身を寄せる 抱きつかれた獣人の耳がピクリと震え、全身の毛が逆立った。喉奥からは、本能的な低い唸りが漏れ出している。
ホットショットは、不遜な表情を崩さぬまま、しかし掌の炎は、普段よりも荒々しい光を散らしている。
イムノは表情を変えぬまま、ストームジーの背と、周囲を途切れなく回遊する、桁違いの巨魚たちの軌跡とを、正確に見比べていた。
摩天楼の谷間に迷い込んだネズミのごとき心細さが、そこにはあった。行き交う“巨人たち”を見上げ、
動向に神経をすり減らしながら降下する以外、この領域で生存する術など存在しない。
奇妙なことに、巨魚たちは一定の距離を保ったまま接近してこない。 先刻の噴火が地殻を揺るがした災厄の記憶、それが支配者たちの神経に焼き付いているのだろうか。
あるいは、目の前の小粒な異物をエサと認識しつつも、些細な捕食欲求が招く他個体との衝突――
そのリスクを本能で回避しているのかもしれない。この領域において、
生存の重きは捕食よりも秩序の維持にこそ置かれるものだろう。
結果として、彼らは人間という異物に対し、遠巻きな観察者の立場を崩そうとしない。
濁流の中を悠然と旋回し続ける瞳には、淡い関心こそ宿れど、静観の域を出ることはなかった。
垂直の関係にあるふたつの軌道が積極的に交わることはない。
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