issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 36
深く、さらに深く。 光の一片も届かぬ領域は、音響すらも押し潰す純然たる闇に支配されていた。
ここは惑星の深淵――万物を呑み込み、ただ規格外の巨躯のみが呼吸を許される、“神々の水槽”の底。
絶対的な暗黒を、5つの影が流星のごとき滑らかさで降下していく。先導するストームジーの眼窩から漏れる燐光が、追従する少女たちの輪郭を幻灯のように浮かび上がらせた。
炎を纏うホットショット、ガンブレードを抱くイムノ、寄り添うミーティスとスヌープキャット――各々の身体は水流を切り裂き、無限の海を渡る。
「そういえばお前たち、水中で活動できるのか?」
「ああ、大丈夫だ。前の失敗から学んだ。その先にある、もっと素敵な失敗を体験するためにな」
ホットショットは肩をすくめ、気泡の代わりに哲学めいた言葉を吐き出す。
……彼女たちの内圧を支えるのは、Issue 02における苦い教訓より編み出された仙術――“三昧の呼吸法”である。無酸素の極限環境下にあっても心拍は穏やかに保たれ、生命の灯は揺らぐことがない。
肉体はすでに深海の圧力に順応している。だが、精神にのしかかる重みは、物的なそれとはまた別の性質を帯びている。それは、あらゆる方向から押し寄せ、思考の隙間に忍び込む孤独の圧。人の心を内側から軋ませる、遅効性の恐怖だった。
やがて暗黒の果てにて、視界がさらなる“影”の胎動を捉える。大陸そのものが呼吸するかのような、
途方もない規模のうねり。
かつて天を貫く跳躍を見せつけた巨魚と同等の生物たちが、突発的な災害を避けてひとつの縄張りへ密集しているのだ。深海に「生ける赤道」のごとき帯を築き、窮屈そうに行き交う様は、この世の光景とは思えぬ圧力を放っていた。
高層建造物をも凌駕する種々の魚群が、感情を欠いた眼球を連ねる。 5人が放つ微弱なエネルギーの燐光でさえ、彼らの瞳の奥底へぬらりとした輝きとして吸い込まれていった。
視線は一方的ではない。深海の住人たちもまた、領域へ侵入してきた小さな異邦者たちをじっと見据えている。 そこにあるのは原初の好奇心か、あるいは縄張りを侵された警戒心か。
判別しがたい重たい眼差しが、濃密な闇を裂いて5人を包囲していた。
5つの影は、深海を流れる“生ける緯線”へと交わっていく。 そこは闇の一角などという言葉では片付かない。暗黒の帳の隙間から、無数の生命が微光を放つ、光の回廊となっていた。 青白く、
あるいは橙色の揺らめきを帯び、海流の律動に合わせて明滅を繰り返す。
深海という巨大な臓器が、光で呼吸しているかのような光景だ。




