issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 32
おせちは、地球文明に敬意を表した挨拶――「握手」を、じつに不本意そうな顔つきのまま総督と交わした。掌に伝わるのは、ぬらりとした異質な触感だ。
自らの張り巡らせた戦略が、まさかこのような形で打ち破られるとは、夢にも思っていなかった。苦渋の決断をしたストームジーに対する負い目だけが、今は胸の奥をしっかりと締めつけていた。
クワウバンの交渉団は、一転して「友好的な協力者」の仮面を貼りつけたかのように、口調も態度も和らげてみせる。それは、おそらく法や利潤と無関係でいられる場面における、彼ら本来の姿なのだろう。
しかし、その眼球の奥で光る打算の欲求は、少しも揺らいではいなかった。いずれにせよ、
この先の協議がなお果ての見えない長丁場になることだけは明白だ。
おせちは、擦り切れた思考の果てに、なんとか「また後日」という言葉だけをひねり出した。
青白い照明に満たされた通路を足早に進む途中、おせちはふいに歩みを止めた。
自らの無自覚な慢心と、それによってストームジーに負わせてしまった重荷への、
痛切な自責の念が、喉元までこみ上げてくる。
「……ごめんなさい」
そのひと言に、ストームジーは振り返った。
光を宿した右眼には、いつもの無機質な探求心ではなく、どこか柔らかな色が浮かんでいる。
続いて、おせちが思ってもみなかった穏やかな笑みが、その口元に広がった。
「いいんだ。ありがとう。それより、今日は5人でパーティーでもしないか?」
その笑顔は、彼が背負う神としての重責を、ほんのひとときだけ忘れさせる、
人間的な温もりに満ちていた。




