issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 31
「――なるほど。ゴチェヌコイ文明の件、それは、私たちにとって看過できない極めて重大な情報です。貴重な警告に、まずは感謝いたします」
一呼吸置き、総督をまっすぐに見据え、あえて1拍遅らせてから、あらためて口を開く。
「私たちのような未熟な文明の存在が、銀河規模の紛争の火種になり得る……。そのご懸念は、
よく理解できました。だからこそ、お伺いしたいんです。あなた方のような、銀河の法と秩序を重んじる先進文明は、このような『潜在的脅威に晒されている未 開惑星』の安全を保障するために、
どういった義務を負うのですか?――」
彼女の言葉は、磨き上げられた黒曜石の空間に、新しい潮流を生み出さんと懸命に響く。
「――星間条約には、未加盟文明への不干渉だけでなく、その文明を理不尽な侵略から保護するための条項も含まれていると聞いています。あなた方がその脅威を認識している以上、私たち母星である地球の安全を、銀河社会の一員として保障する具体的な計画を提示していただくことこそが、まずあなた方が果たすべき『遵法的な手続き』ではないでしょうか?――」
おせちは、総督の顔をまっすぐに見据え、さらに言葉を重ねた。
「――そして、そのような暴力的な文明を放置することは、あなた方自身が掲げる『法と秩序』の理念に反するはずです。有力文明であるあなた方には、その範たる行動を取る義務がある。
ゴチェヌコイ連合に対し、星間条約からの除名や糾弾、制裁を発動すべき責務すら生じるはずです。
私たちがこの星の権利を放棄するかどうかの議論は、その『地球安全保障計画』が示されてからでも遅くはないはずです――」
その弁舌は、クワウバン交渉団のあいだに、短いが重い沈黙を生んだ。
ただし、彼女の声は目に見えて勢いを失い、末尾ほどに力を欠いていく。無理のある前提にさらなる無理を重ねる、「溶接」にも似たその危うさは、味方の耳にさえ明らかだった。
星間条約に加盟していない地球文明のために、銀河の有力勢力であるゴチェヌコイと真正面から対立してまで、クワウバン側が安全保障を引き受ける義務が、はたして、どれほどあるものだろうか。
その無茶な要求を飲ませるには、それこそ星を差し出すほどの対価が必要になるだろう。
おせちの主張は、その1点において、すでに破綻していた。
そのとき――
張り詰めた空気を押しひらくように、会議室の奥から、低く、それでいて揺るがぬ声が届いた。
「――おせち、もう構わない」
呼びかけを受け、おせちは言葉を失ったまま振り返る。思考は一瞬、強く白んで、声の主が誰であるか、目で確かめるまでわからない。
だが、背中を貫いてきた気配の在り方が、その名を即座に告げていた。
そこに立っていたのは、ストームジーだった。彼は、クワウバンの総督をまっすぐに見据え、その神々しい声を、会議室全体に行き渡らせる。
「この惑星の統治権を、地球とクワウバンの両文明に委ねる」
「……でも!」
おせちの抗議は喉までせり上がりながらも、ストームジーのまっすぐな視線に押しとどめられた。
彼はゆっくりと彼女の方へ向き直り、その瞳に深い諦念と、それでも折れぬ意志を同居させて告げる。
「いいんだ。私ひとりのわがままで、君たちの文明まで危険に晒すわけにはいかない。……ありがとう、おせち」




