issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 30
「……お待ちください総督。そのゴチェヌコイと対立するのは『地球』ではありません。
この惑星の暫定統治機構、すなわち私たち4人組です。その挑戦が避けられないものだというのなら、私たちはいくらでも受けて立ちます」
おせちは、背後に並ぶ姉妹たち――その常識外れの戦闘力を心の支えに、そう言い切った。
彼女たちの力量を踏まえれば、それは単なる虚勢では終わらない。たとえゴチェヌコイという文明そのものを相手取ったとしても、その元首の喉元へ刃を突きつけて直談判に持ち込むくらい、彼女たちなら本気でやりかねない。
だが総督は、嘲るようにわずかに首を傾げただけだった。
なぜなら、その「戦う」という宣言は、徹頭徹尾、彼らクワウバンに対してぶつけるべきものではないからだ。
「……『地球と我々は別政府』?吉濱おせち殿。それは、貴殿がこの閉ざされた会議室の中だけでこねくり回した、まったくもって無力な理屈です。この宇宙の最も根源的なルール――すなわち、圧倒的な武力の前では、ね」
総督の声が、一段と低く沈む。
「――仮にゴチェヌコイが、貴殿方のその小さな統治機構を、寛大にも『別個の政府』として扱うとしましょう。そうだとして、どうして彼らが、貴殿方の祖国である『地球』を戦渦に巻き込まないと断言できるのですか?」
「……!」
その指摘が、おせちの思考の盲点を、氷の杭のように打ち抜いた。「論理」や「法」ではなく、「巻き添え」――その、あまりにも現実的で、無情な脅威。彼女の完璧な計算は、その1点において、完全に無防備だった。
おせちの思考が、どうしようもなく、出口のない迷路を延々とさまよい始める。
それが無益な焦燥であると心のどこかではわかっていながら、それでも考えることをやめられない。
(……最悪の1手として――エイペックス・レジェンドに、地球を明け渡す)
(……猿人による革命。それを受け入れれば、地球は一夜にして『26世紀の宇宙』そのものの支配に成功した超巨大文明の一員になれる。ゴチェヌコイだろうとクワウバンだろうと、手出しはできない。……でも、それは借金を借金で返すような話でしかない――)
(――そもそも彼が私たちに都合よく協力してくれる保証なんてどこにもない。26世紀との通信手段が、今も彼に残されているのかさえ怪しい。……いや、仮にすべてがうまくいったとして、どっちみちそんなアイディアは地球を売るのと変わらない。何か別の――)
おせちは、胸にまで転移しはじめた動揺を、意思の力で押さえ込んだ。




