issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 29
総督は、そこで言葉を切った。黒曜石の壁と床が抱え込む闇が、おせちの背へ厚く圧し掛かる。
自分の描いた完璧な戦略が、最悪の未来を開く導火線になっていた――その事実だけが、容赦なく胸を締め付けた。
「吉濱おせち殿。もしそうなれば、この議題の焦点は、もはや『この星を誰が所有するか』ではありません。この惑星を、そして”不運にも”この惑星を発見してしまった貴殿方の文明を、
ゴチェヌコイからいかに守るか――そこに移ります。……その前提を踏まえたうえで、
あらためて提案いたします。この星の“2文明による共同運営”について、
前向きにご検討いただけませんか?」
クワウバンの交渉官たちが、一斉に体躯をわずかに傾け、総督の提案に賛意を示した。
場の空気は一段と重く沈み、ストームジーの眼窩の光が強く明滅する。アシュリーは拳を握り込み、
さなとはちるは息をひそめたまま動けない。
おせちが丹念に積み上げてきたはずの論理の城が、ついに土崩する感覚だけが、彼女の全身を支配した。
気づけば、形勢はとっくに相手側へと傾いていたのだ。
……所詮は、口先三寸の盤上遊戯。
おせちには、この交渉をどこかでそう断じていた節があった。「地球文明」という、あまりにも巨大で手触りのない言葉を背負うことへの、無自覚な慢心。あるいは、無責任さ。
だが、総督の突きつけた現実は、その甘さへ容赦なく冷水を浴びせかけた。
敵対的な第3文明の存在――その可能性が示された今となっては、自分の発する一言一句は、もはや駆け引きの道具ではない。文字どおり、地球人100億の「総意」を、この自分が勝手に代弁し、その未来を左右してしまいかねない宣言となる。
その途方もない重みを、本当に自分は引き受けられるのか。
問いはやがて形を失い、「自分には荷が勝ちすぎる」という冷えた確信へと変わって、体の芯を凍らせていく。腹の底から、鈍い震えがじわじわと這い上がってきた。
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