issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 28
「吉濱おせち殿。貴殿の、その『このまま議論を法的な膠着状態へと導き、我々の補給限界をもって撤退させる』という戦術は、たしかに合理的です。きわめて……実に」
「我々が軌道上に展開している艦隊の維持コストを鑑みれば、いずれ本国政府は、この星の領有を『非合理的』と判断し、撤退を命じることになるでしょう」
そこで総督は一度言葉を切り、あえて間を置いてから付け加えた。
「個人的な見解を率直に述べますと、それはおそらく、あと3周期もかからぬうちのことになる――私はそう予測しています」
あまりにも率直に勝利条件を肯定し、ここまでの手の内を自ら明かしてみせる口ぶりに、おせちの胸中でくすぶっていた予感は、ゆっくりと確信へと姿を変えていく。
「――ただし、その勝利は、もしこの星系に、我々と貴殿方しか存在しないのであれば、という仮定の上での話になりますが」
その一言が、おせちの組み立ててきた論陣を、ついに根底から揺さぶった。総督はなおも続ける。
「貴殿方がこの星にワープ到達し、続いて我らがこの星に来訪した――すなわち、条約に基づく『第1発見』の定義を我々が満たした、そのわずか数日後のことです。
我々はこの宙域で、第3の文明……『ゴチェヌコイ連合』の探査艦による航行データを観測しました。貴殿方のデータベースには、まだ登録のない名でしょうが――」
「――彼らもまた、我らに対し、この惑星の領有権を主張しました。……しかし我々は、それを法的に退けています。ほんの『滑り込み』と呼べる程度の差ではありましたが、我々の方が、わずかに早くこの星を発見していたからです――」
「――そのゴチェヌコイ連合は……率直に申し上げて、危険な文明です。我々のような条約加盟文明との正面衝突は慎重に避けますが、銀河法の手が届かぬ未開拓領域、あるいは貴殿方のような未加盟の原始文明に対しては、きわめて侵略的かつ効率的な『浄化』を行う勢力として知られております――」
総督は、鎌状の腕の1本を、ゆっくりとおせちへ向けた。
そのうごきからは、一片の感情も、底にある思惑も読み取れない。
「我々がこの星から撤退すれば、どうなるか。この惑星は、ゴチェヌコイにとって、単なる白紙の地と化すでしょう。我々がここに居座り続けていたことこそが、皮肉な話ですが、彼らの進出をこれまで押し留めていた唯一の“蓋”だったのですよ――」
「――貴殿は、我々との交渉に勝利し、撤退を勝ち取る。その途端、この星と、この星への航路を把握してしまった貴殿方の母星『地球』は、より強大で、より粗暴な捕食者の前に、無防備なまま晒されることになるのです」




