issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 26
「……これにより、あなた方が問題視されていた『文明の総意』および『政治的承認』の問題は、完全に解消されました。
私たち4名をもってこの惑星の暫定統治機構とし、この星における対外的な意思決定は、今この瞬間より、4人の合議によってのみ有効に発布されます」
総督の無表情な顔貌が、おせちを捉えたまま動かない。
次の瞬か…ではなく、すぐさまおせちはくるりと180度向き直り、姉妹たちと対峙した。
交渉用の冷徹な仮面がすっと外れ、内輪に向ける柔らかな顔つきへと切り替わる。
「……じゃあみんな、私が『地球人をやめてこの星の子になりますか?』って言ったら、手挙げて『はーい』って元気よく言うんだよ?」
彼女は、アシュリーが反論する0.5秒の隙さえ与えず、即座に採決に移った。
「地球人をやめて、この星の子になりますかー!?」
「「「はぁ~い……」」」
3人の腕が、ゾンビじみただらんとした角度で上がる。
アシュリーは力なく額を押さえ、さなは今にも泣き出しそうな顔になった。
「では、私、吉濱おせちが皆の意思を代弁してよろしいですかー?」
「「「はぁ~い……」」」
腕が力なく降りる。茶番は、3秒もかからずに終わった。
おせちは即座にクワウバン側へ向き直る。
さっきまでのふざけた色は完全に消え失せ、そこにあるのは冷静な交渉人の顔だ。
「……いかがですか?これで『地球文明』の代表権について議論する必要はなくなりました。あらためて、あなた方に問います。 この星の暫定統治機構として、私たちの主権を承認し、この星系から即刻撤退するよう、要求いたします」
ゼ=ラクス・ヴァル総督は、しばらく沈黙を保ったのち、
鎌状の腕の1本を、ゆるやかに頭部へと持ち上げた。
刃先が、真皮の浮いた頭蓋の表面をかすめる。
きしむような細い音が、黒曜石の会議室にさざ波のごとく広がった。
おせちは、そのささやかな仕草の奥に、疑いようのない“揺らぎ”を見た。
総督の思考の均衡が、ここにきて初めてわずかに傾いたのだ。
己の口から放った問いが、この議論そのものを宙に浮かせた感覚を、
彼自身が掴みかけているのを感じ取った。




