issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 25
……当然ながら、この宣言も真っ赤な嘘である。 今この瞬間に、この場でひねり出された、
起死回生のための詭弁だ。
おせちは、自分たちの「地球代表」という立場が突かれた瞬間から、その法的ジレンマには勘づいていた。
もしここで単純に、「今この場の思いつきで原住種族になる」と口にしてしまえば、クワウバン側が主張する「第1発見」のあとから主権を名乗り始めた、という形になる。
そうなれば、権利の優先順位で法的に劣後するおそれが出てくる。
かといって「地球人」のままでは、「代表権があいまいだ」という攻撃を、今後も際限なく受け続けることになる。
だからこそ、彼女が選び取ったのは「遡及」という名の、あまりにも大胆な論理のハッキングだった。
『実を言うと、私たちは漂着した初日から“二重国籍”だったんですよ。だって、着いてすぐに4人で「ここに政府を立てよう」って合意を済ませてましたから。――もちろんそのタイミングだって、あなたがたクワウバンの『第1発見』より前です。
今まで黙ってたのは、単に誰とも会わなかったから言う必要がなかったってだけ。
でも今、あなたたちが「お前たちに地球代表の資格なんてない」なんて難癖をつけるんだから、
もう結構です。地球籍は捨てます。これで私たちは、遭難初日から存在していた(ことにする)『この星の原住政府』の代表です。これなら文句ないですよね?』
要するに、彼女はこう言い放ったに等しいのだ。「過去の事実」を「現在の都合」に合わせて改変するという、悪魔的な時間操作を、涼しい顔で実行してみせたのである。
この厚顔無恥な論理操作によって、
彼女は「第1発見」の権利(=地球人として最初に到達した事実)を保持したまま、
同時に「完璧な代表権」をも主張できる形を作り出した。
それは、法の袋小路をこじ開けるためだけに組み上げられた、唯一無二の虚構。
クワウバンの勝ち筋を根本から崩壊させるための、冷笑的な1手だった。




