issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 22
「……吉濱おせち殿。貴殿の指摘、見事と言うほかありません」
総督は、ゆっくりと頷いてみせた。それは、敵に対する敬意の表明か、あるいは獲物が罠にかかったことを確信した捕食者の余裕か。
「貴殿の仰る通り、『第1発見』に伴う権利は、条約によって付与される許認可ではありません。それは物理的な到達という事実のみに基づき、いかなる承認も必要とせずに発生する『原始権』です。我々クワウバンもまた、加盟・非加盟を問わず、すべての知的生命体に対してこの権利が普遍的に適用されることを、法理の前提として認めております」
「――!」
おせちの表情に、わずかな安堵と勝機の色が差す。相手がこちらの土俵に乗ってきた。このまま押し切れる――そう思った矢先だった。
「――ですが」
総督の声色が、氷点下へと急降下する。
「権利が『存在する』ことと、それを外交の場で『行使できる』ことは、法的にはまったく別の問題です。原始権を行使するためには、その主体となる資格――すなわち『器』が必要となります」
その問いに応じるように、クワウバン総督は隣席の交渉官と視線を交わす。
体表には再び、回路めいた光の波紋が走り、目に見えぬデータリンクの成立を言外に告げた。
総督は、おせちへと向き直り、結論を告げた。
「ご質問にお答えしましょう。貴殿の仰る通り、文明の政治的状態に関する直接的な規定は条約文にはございません。しかし、我らの星間法理の根底には『一星一政府』の大原則がございます。
惑星を代表する単一の意志決定機関が存在しなければ、条約の履行責任を誰が負うのか判然とせず、星間規模の契約は本来成り立ちません。複数の主権が乱立する未熟な文明を相手取れば、無限の再交渉と内戦の火種を、銀河社会にまで持ち込むことになるでしょう。ゆえに、条約機構に席を得るためには、少なくとも『単一惑星国家』としての体裁を整えることが、最低条件とされているのです。
加えて申し上げれば、『偶発的なワープ到達』と『正規の観測』が近接した時間帯で競合した事案については、すでに判例がございます。――そして、その先例は、我々クワウバンにきわめて有利な解釈を与える内容となっております」
法を重んじる彼らにとって、それは交渉の切り札であったはずだ。 だが、おせちはその言葉にも一切動じなかった。




