issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 21
さなは、テーブルの下でおせちの腿にそっと手を添えた。
指先から伝わるごく控えめな圧力は、言葉を介さない警告であり、これから訪れる展開への合図でもあった。おせちは、それを受け取ったかのように一瞬だけ瞳を伏せ、すぐさま総督の方へと向き直る。
「……我々の調査によれば、貴殿方の母星である地球は、単一の惑星国家ですらないようですな」
総督の声が、平衡を取り戻した精神に支えられ響く。
「複数の小国家が分立し、恒久的な統治機関も存在しない。さらに、この惑星への到達は偶発的なワープ挙動によるものとお伺いしました。そのような状況下で――貴殿方が『地球文明の総意』を代表していると主張される根拠は、どこにあるのですか?」
論点の刃が、ためらいなく突き立てられる。
おせちは唇をわずかに引き結んだが、その表情に陰りはない。
地球の政治体制を即座に解析され、その弱点を論拠として突かれることなど、
すでに織り込み済みだったからだ。
「たしかに、地球はひとつの国家ではなく、多くの国家や組織に分かれています」
おせちは、クワウバン側が「弱点」として突いてくるであろう点を、あえて先回りして口にした。
「――そして、私たちがこの場に立っているのも、あなた方の言う偶発的なワープでこの惑星に到達し、最初にその存在を確認したという、ただその1点の事実に基づくものです」
「それでも――」
彼女の声が、黒曜石の室内でわずかに力を帯びる。
「――地球上に国家の違いはあれど、この『第1発見』という根源的な事実そのものは、
どの文明も否定することはできません。 つまり、ここで私が用いる“総意”という言葉は、
あなた方が期待するような形式的な政治的承認を意味してはいないのです。
地球文明の観点から見て、『最初にその存在を認識した者が、暫定的な代表権を持つ』――私はその、法に先立つ原則に従って話しているにすぎません」
当然ながら、これらはすべて彼女の口から出まかせに過ぎない。 地球上のいかなる地域や時代においても、「発見者に外交の全権を託す」などという都合のいい合意形成プロセスが存在した事実はない。
おせちは今、この窮地を脱するためだけに、地球文明の法慣習をその場で勝手に創作してみせたのだ。
検証手段を持たない異星人に対し、未知の文化圏の「常識」を盾にする――それは交渉術というよりも、詐欺師の用いる手口そのものだった。
そしておせちは、ここでひと呼吸おき、言葉の刃先をさらに研ぎ澄ませる。
「第一、あなた方の星間条約は、発見者の所属文明の『政治的状態』――例えば、それが統一された惑星国家であるか否かなどを、権利発生の要件として明確に規定しているのですか?」
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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