issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 20
「私たちは、この惑星に実際に到達し、その存在を確認した、最初の知的生命体です。この"第1発見"という事実こそが、条文の有無に先立って、根源的な権利を生み出す――私はそう考えています」
彼女は掌を閉じ、拳を軽くテーブルに置いた。
「代表権についても答えます。地球文明の総意に基づいています。先ほど総督、あなたがおっしゃった通り、地球はあなた方のデータベースでは"その他"の棚に放り込まれた未分類のファイルかもしれない。
ですが、ファイルが整理されていないことと、そのファイルの中身に価値がないことは、同じではありません」
おせちは、総督の瞳を射抜くように見据え直した。
「もしあなた方が、自らを遵法的な文明と称するのであれば――形式的な加盟の有無ではなく、
この『第1発見』という事実が持つ普遍的な意味をこそ、まず尊重すべきではないでしょうか?」
……そもそも、その『第1発見』の原則は、まさに私たちのような文明のためにあるはずです。
仮に、『条約加盟文明』でなければ天体の所有権を主張できないという規定が存在するとしましょう。
その場合、どの文明も、自らの母星に対する所有権を法的に獲得できず、
結果として“最初の1文明”以外はいずれも星間条約に加盟できない、という矛盾に行き着きます。
そうした法体系の行き詰まりを避けるためにこそ、『第1発見』の原則は用意されているのではありませんか?
私たちは、その原則に拠りながら、この惑星の未来を、そちら一方の開発計画に委ねるわけにはいかない――そう言っているんです」
おせちの言葉が議場の空気を揺らした、その刹那、ゼ=ラクス・ヴァル総督の右隣に座していた側近が、わずかに身を乗り出す。
赤褐色の体表を走る光の筋が、ゆるやかに総督の方へと流れ込み、その先端が、触れるか触れないかの距離で静止する。物理的な接触を介さずに成立する、データリンクの回路がそこに結ばれたのは、誰の目にも明らかだった。
その光景を前にして、さなの脳裏に、ふと“真実の像”がきらめいた。
彼女の霊感が捉えたのは、無数の光粒が閃光のごとく走り抜ける、情報空間の具体的な断面だった。
側近が、議場のネットワークを介して地球文明の情報を緊急に検索し、その結果を圧縮転送によって総督へ流し込んでいる――。その一連の秘やかな処理が、さなの感覚には、光の奔流が空気から側近へ、そして総督へと吸い上げられていく光景として“視えた”のである。




