issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 17
その一言で、会議室の呼吸が止まる。
アシュリーは口元に不敵な笑みを浮かべ、さなとはちるも息を潜めて、おせちの背中を見つめていた。
クワウバン代表の翻訳機が、今度は明確な警戒を声に滲ませ、再び問いを発する。
「……重ねてお伺いいたしますが、どういうことでございますか。あなた方は、カイルス・ヴォー殿の――」
「先日、私たちは偶然にもあなた方の会議に立ち会いました――」
おせちは、相手の発言を遮って、滑らかに言葉を紡ぐ。
「――そして後日、ヴォーさんに確認したところ、この星はまだ、いかなる文明の所有物でもない、
と、彼はおっしゃられました。ですから私たちは、地球文明の代表として、そして、
この星の真の第1発見者として、あなたたちとの正式な交渉の席に着こうと思ったわけです」
「しかし!」
思わず総督は、席から身を乗り出しかける。
「あなた方は、カイルス・ヴォー殿の眷属であると!」
「いいえ――」
おせちは、その昂ぶりをあっさりと切り落とすように言い放つ。
「カイルス・ヴォー氏は、私たちのことを『縁者』と説明したはずです。眷属や使い魔という表現は、そちら側の一方的な解釈にすぎません」
そこで、ひと呼吸置く。
「実際には、私たちは自然霊ではありません。地球という天体に生まれた『知的生命体』です。
先日この星に遭難し、ヴォー氏の庇護を受けてここまで来ました。――そうした経緯を踏まえたうえでの距離感を、彼は『縁者』という言葉で示したかったのではないでしょうか?もっとも、本人の胸の内までは断定できませんが」
挨拶代わりに振るわれた、論理の刃。 それは黒曜石の空間に、はっきりと意思の刻印を残した。
交渉団の視線が、一斉にストームジーから、この小さな「地球」の少女へと移っていく。
*
開発船団の総督をはじめとするクワウバンの重鎮たちに、わずかな動揺が走った。
もしそれを「表情」と呼ぶなら、そこには紛れもない「してやられた」という色が浮かんでいる。
彼らの体から、ごく小さく、かみ殺すような鳴き声が漏れ、それはため息にも似た響きとして空気に溶けた。
直後、クワウバン代表の声が響く。
「……承知しました。恐縮ですが、安全確保のため、現在位置より数歩後方へご移動願います」




