issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 14
「どうしたの?その紙――」
着地を迎えたおせちが、訝しげに問いかける。
ストームジーは、かすかな疲労を帯びた声で答えた。
「これは、星間条約の条文を抄録したものだ。ひと通り目を通して、内容を把握しておいてくれるか?」
おせちは怪訝な表情のまま、無言で紙束を受け取る。
指先に伝わる粗いわら半紙の感触と、地球語でぎっしり刷られた条文の列を見やり、眉根を寄せた。
瞳の奥では、新しい知識への興味と、この書類が招きうる事態の大きさへの予感が、次第に重なり合っていく。
「……わかった」
短く応じると、斜面の岩の突起を椅子代わりにして腰を下ろし、あぐらを組んで資料を開く。
紙を繰るかすかな音だけが、山頂の空気に規則正しく刻まれた。
彼女の冴えた頭脳が、複雑な宇宙法規の骨組みを、無駄なく、着実にほどいていく。
そのあいだも、アシュリーは噴気孔から立ちのぼる蒸気のまわりを飛び回り、
はちるは大岩を積み上げては崩し、さなは空に浮かぶ7色の鳥と、
自分の呪符を仲良く追いかけっこさせていた。
ストームジーは、そんな光景を横目にとらえながら、支配下にあるこの天地を、遠く見渡す。
柔らかな陽射しと、数えきれない命のざわめき――そのどこにも、迫り来る決戦の影はまだ姿を見せない。やがて彼の視線には、悠久の時を刻むこの惑星の未来と、そこから芽吹こうとする次代の生命の可能性だけが、ひたすらに映り込み始めた。
のどかに、昼の時間だけが過ぎていく。星の命運を左右する交渉の合間に訪れた、束の間の平穏。
空高くでは、目に見えない何かがじわりと動き始めているのに、地表だけはまだ、
何事もない日常の顔を保っている、そんな境目のひと時だった。




