issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 10
異次元のごとき黒曜石の会議室、双方の意見が着々と交わされる。機械の喉を震わせ、
クワウバンたちの剥き出しの眼球は寄ってたかってストームジーひとりを射抜き続けた。
「……繰り返させていただきますが、管理霊殿。我らの主張は、現行の星間条約、特に第3条に明記されました『知的生命体の不在』という客観的事実に、あくまで基づいたものであります」
ストームジーの眼窩に宿る光が、きつく細まる。が、テーブルの向こうに並ぶ交渉官たちは、誰ひとりとして身じろぎもしない。
「そして、貴殿の仰せになります『萌芽』なる概念は、法的拘束力を持ちません」
ここから、矢継ぎ早の応酬が始まった。ストームジーが朗々と声を発し、そのたびに机の向こう岸からは、翻訳された言葉が投げ返された。場の圧は段階を踏んで増し、見守るアシュリーたちは思わず息をひそめた。さなは理解を越えた議論の流れに戸惑い、アシュリーの影へ身を寄せる。
ストームジーは、条文だけを盾にした彼らの論理に真っ向から異を唱える。
「貴殿らは条文そのものを拝む。だが宇宙の法とは、本来、文字列ではなく理念だ。
生命の可能性を切り捨て、惑星を単なる資源とみなす行為は――」
総督の声が、即座にその言葉の上から被さった。
「――倫理、多様性。それらは主観です。我らの行動は、科学的根拠と条約体系に基づくもの。感情論は不要であり、かつ正当です」
アシュリーは、彼らの事務的な応対に、思わずあくびを噛み殺す。おせちは、
ストームジーの表情のこわばりから、彼の焦りがすでに限界に達しつつあることを読み取っていた。
ついにストームジーが、卓を叩いた。黒曜石の天板に、乾いた音が鋭く響き渡る。
「貴殿らには、宇宙の摂理そのものを歪めている……その自覚はないのか!?」
その叫びを押し流すように、総督の発声器が甲高い駆動音を上げる。剥き出しの眼球は、ストームジーの激昂を、ただ数値として記録しているかのようだった。
「――とにかく、以上が、星間条約第3条に基づく、我々の正当な入植権の論拠でございます」
代表の翻訳機が淡々と告げた後、わずかな駆動音ののちに、さらに言葉が続いた。
「付け加えますと、管理霊殿。我々は貴殿の意向を最大限尊重した上で交渉を行っております。
しかし――法的手続きを厳格に適用するならば、貴殿の同意が得られぬままでも、
入植の実施は可能なのです。これは条約の明文に基づく、宇宙“人類”の当然の権限ですから」
穏やかな音色を保ちながら、そこには一切の情感が混じっていない。ストームジーのこめかみに、
見えないこわばりが走る。アシュリーたちはその条文の細部までは理解できずとも、場に満ちる空気の変動だけは、いやというほど肌で感じ取っていた。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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