issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 08
やがて一行は、ひときわ大きな扉の前にたどり着いた。案内役のクワウバンは、
鎌腕の1本をなめらかに差し向け、4人へと向き直る。
「こちらが会議室でございます。船団長がすでにお待ちです。
皆様の理性と、誠意ある対話を、我々は心より歓迎いたします」
紳士的すぎる所作と、悪夢じみた容姿。脅威を思わせる挙動ののちに放たれる、
完璧な謝罪と丁重な物腰。地球の常識を裏切るその認知の落差を、
ここまで幾度となく味わってきた彼女たちの心は、すでにどこか擦り減っていた。
今はただ、「ようやくここまでたどり着いた」という事実だけが、
残された感情の最後の拠り所になっていた。
そんなところで――
扉が、内側の光を漏らしつつ開く。そのとき、光の帳に紛れるようにして、
4つ足の怪物が1体、突如として飛び出してきた。
筋肉の剥き出しになったネコ科の獣に、ワラスボの頭部を無理やり継ぎ足したかのような常軌を逸した姿。だが、しなやかな肢体には、たしかな機能美も宿っている。
その身体はすでに空中の半ばまで跳び上がっており、丸く身をまとめたまま、弾丸のような勢いで廊下へと躍り出た。
「――!?」
はちるは、そのあまりの速度と迫力に、思わず腰が抜けそうになった。
だが、すぐあとには、それ以上に意表を突く光景が待っていた。
怪物は低く着地すると、4つ足の体をバネのように反転させて上体をもたげ、
はちるの両腕――反射的に、そして遠慮がちに差し出された腕――へ、
自分から前足をそっと預けてきたのだ。ついさっきまでまとっていた殺気は跡形もなく消え去り、
その仕草は、長く飼い慣らされた犬がごく自然に飼い主へ寄り添うときのそれへと変わっていた。
「あ、どうもよろしくお願いします――」
はちるは、目の前の相手というよりむしろ、戸惑う3人に事情を説明するような調子で言う。
「……この人も、クワウバンみたい」
アシュリーが眉をひそめたまま目を丸くし、さなはまだ信じきれない顔で瞬きを繰り返し、
おせちは口をわずかに開けたまま呆気にとられ、やがてゆっくりと小さくうなずいた。
「ああ、驚かせてしまって申し訳ありません」
ゴ=ヴォダ・ジェィワが丁寧に、しかし淀みなく応える。鎌状の腕がかすかに揺れ、4つ足のクワウバンの背筋をなだめる様に何度か撫でた。
「――我々クワウバンの成人には、いくつかの標準形態がございまして。どうぞご心配なく」
4つ足のクワウバンは、はちるの目前でぴたりと身じろぎを止めると、翻訳機から、
先ほどとは打って変わった、よく整った合成音声を響かせ、一行を見渡した。
「ようこそ、カイルス・ヴォー殿、そして眷属の皆様。船団長はこちらに。どうぞ、このままお入りください」




