issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 06
エアロックの金属音が背後で鋭く鳴り、隔壁が閉じ切る。
その向こう側には、生物の内部を思わせる丸みを帯びた壁面と、精密な機械構造が一体となった通路が伸びていた。天井には彼らにとってちょうど良いであろう青白い照明が満ち、どこかから伝わる機械の駆動音と、甘さと生臭さの混ざった空気が、絶えず鼻腔を刺激する。
案内役のクワウバン、ゴ=ヴォダ・ジェィワは、滑るような足取りで一行を先導する。
足元の床は粘液でしっとりと覆われており、踏みしめるたびに音が床に吸い込まれていく。
「失礼。当船の通路は、我々の体液で常に湿度を保っております。お足元には十分お気をつけください」
完璧なテノールで発せられるその説明と、視界一面に広がる光景との乖離が、背筋にひやりとした感覚を走らせた。
「……どうも」
おせちが、どこかぎこちない調子で返した、その直後だった。
「ひゃっ!」
先頭寄りを歩いていたさなが、小さく悲鳴を上げる。
足裏に伝わるぬめりに条件反射で身を跳ねさせ、バランスを崩しかけたのだ。
アシュリーは眉間に皺を寄せて露骨に顔をしかめ、はちるは獣のように腰を落とし、
床に鼻先を近づけるべきかどうか真剣に迷っている。
通路が十字に分かれる地点へ差しかかった、そのときだった。
角の向こうから、別のクワウバンが、青白く血管の浮いた臓器を詰め込んだ瓶をいくつも抱え、全力疾走で飛び出してくる。
――ドンッ!
荷物に気を取られていたクワウバンが、列の端を歩いていたさなの肩へ真正面からぶつかった。
「きゃっ!」
さなは無防備に弾き飛ばされ、粘液に覆われた床へ尻もちをつく。
ぬるりとした感触が服越しに背中へ這い上がり、目の縁に涙がにじんだ。
ピタリ、と案内役のゴ=ヴォダが足を止める。
「!」
ぶつかったクワウバンは、抱えていた瓶をその場に取り落とした。
容器の中で液体が揺れ、浸された臓器が不吉に揺らめく。
すぐにそのクワウバンは、剥き出しの巨大な眼球をぎょろりと見開き、さなを射抜くように見下ろした。
6本の腕を、一気にぐわりと広げれば、鎌めいた2対の腕が天井の光を反射する。
そして、喉の奥から、言語と呼んでよいのか迷う音声が絞り出された。
「キシャアアァァッ!――」
「――グルルルッ、クリック、クリック!」
縄張りに踏み込まれた捕食者の威嚇そのものが、通路の壁に反響し、さなの鼓膜を直撃する。
今にも涙がこぼれそうになったその前へ、3人が反射的に躍り出て盾になるように身構えた。
一触即発――




