issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 05
風光の橋を渡りきると、巨大な円形のエアロックが眼前にそびえていた。
内側からあふれる光を帯びながら、金属の輪がゆっくりと口を開いていく。
その入口に――“それ”は立っていた。
全長はおよそ3m。『エイリアン』のゼノモーフを思わせる、後頭部が不自然なほど長く伸び、
骨格がそのまま外側へ押し出されたような体躯だ。
だがそれ以上に目を奪うのは、『デッドスペース』のネクロモーフさながら、全身の皮膚が剥ぎ取られ、赤黒い筋繊維と白く光る腱が、むき出しのままぬめった光を返している点だった。
腕は6本。鎌じみた刃を備えた腕が2対、その狭間に、人間とおなじく指を持つ細身の腕が1対。
いずれも異様に長く、動き出せばそれだけで周囲の空間が占拠されてしまいそうだ。
そして何より不気味なのは頭部だった。そこにはまぶたという構造がない。巨大な眼球が、常にむき出しのまま、ぎょろりとこちらを射抜いてくる。
そのおぞましい姿に、さなとはちるの息が止まる。
おせちは反射的に1歩前へ出て、仲間たちをかばう位置を取った。
アシュリーは唇を噛み、掌に集まりかけた熱を、無理やり押し殺す。
門番は、まずストームジーに目線を向けた。
今にもこぼれ落ちそうな彼の眼球が、来訪者の全身をゆるやかに走査する。
「……ようこそおいでくださいました、管理霊殿。総督がお待ちです」
喉元に装着された翻訳機から響く声は、意外なほど穏やかで整っていた。
ついで門番は、後方の4人に眼を移す。感情の読めない光を宿した大きな瞳が、観察するようにゆっくりと上下する。
「……して、こちらの方々は?」
「彼女たちは『縁者』だ。会議まで同行させても構わないな?」
ストームジーは、一切ためらいを見せず答えた。
門番の目がわずかに光を変える。沈黙の時間はことのほか長引き、少女たちの喉に重たい空気が絡みついた。が、その次に発せられた声は、驚くほど優雅な響きを帯びていた。
「ようこそ、『使い魔』の皆様。私ゴ=ヴォダ・ジェィワがご案内いたします。
どうぞ、こちらへ」
その宣言とともに、皮膚を失った異形は、まるで執事のように深く頭を垂れた。
むき出しの筋肉と腱が動くたび、その礼法の所作がかえって端正さを増して見える。
「……は?」
アシュリーの口から、気の抜けた声が漏れる。
おせちは小さくため息をつき、炎を引っ込めたアシュリーの肩にそっと手を置き、門番へ向き直って丁重に頭を下げた。
「ご丁寧にありがとうございます。姉妹が少し驚いてしまっただけです」
「……ああ、承知しました。中へどうぞ」
門番は翻訳機越しの声色をやわらげ、鎌めいた腕の1本で入口の奥を上品に示した。
示された先で、通路の白い光がいっそう強まっていく。
4人は互いに目を交わし、ストームジーの背中を追う。
こうして彼女たちは、未知の文明の中枢へと、1歩1歩、身を踏み入れていった。




