issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 02
彼が動きを止めた地点で、4人の目に信じがたい光景が飛び込む。
視線の先、海の果て。
数kmは優に超えるだろう巨大な構造物が、沈むことも漂うこともなく、海面にどっしりと腰を据えている。
荒天の余波が外殻を叩いても、わずかな揺れすら見せない。それは、もはや「船」という言葉では足りない。あたかも海上に、大地そのものを切り取って据え付けたかのようなものだった。
艦影の造形は、80〜90年代OVAに登場した戦艦群を思わせる。
横倒しにしたデザイナーズビルのような外形。
前後方向へ伸びる船体には、段状のセットバックが幾重にも刻まれ、テラスめいた張り出しや、
幾何学的な窪みが複雑な陰影を刻んでいる。
どこか「マクロス」や「アルジェントソーマ」の系譜に連なる、古典的SFデザインの気配をまといながらも、目を奪うほどの迫力で海上を支配していた。
……一体、いつからここにあったのだろう?絶え間ない風雨に、装甲を覆う「ワカメ影」が揺らめき続ける。しかし、その表面を這うのはロボットアニメ風の影だけではない。
装甲の合わせ目や甲板の縁、小さく突き出た塔状構造物の側面には、無数の光が瞬いていた。
窓、航行灯、内部エネルギーライン――点在する光点が一定のリズムで明滅し、
まるで巨大な都市の夜景を、そのまま海に浮かべた幻を見上げているかのようだ。
幾千幾万の灯が呼吸を揃え、巨大な生き物の鼓動のように強弱を繰り返す。
眠りも覚醒も拒む大艦の姿が、海上の闇に、不気味なまでの威容と、どこか荘厳な気配を放っていた。
「……なにこれ!?」
着水したおせちは、次の瞬間、自分が水上を自在に駆ける生き物ではないことを思い出したかのように、胸まで海に突っ込んだ。両手で水をかき、どうにか体勢を立て直しつつ、呆然と呟く。
しかし、本当の衝撃は、頭上にあった。
ストームジーがこじ開けた嵐の裂け目の向こうで、星空が顔をのぞかせている。
そのまぶしさは、夜空に漂う星雲だけに由来するものではない。
空一面に、白銀の河が流れていた。この星の、もどかしいほどに美しい天の川は、たしかにそこにある。
だが、そのさらに下層、天と海のあわいには、無数の点滅が列をなし、見渡せる限りの空域を埋め尽くしていた。
ひとつひとつが、眼前の艦と同等の規模を持つ船影――そうとしか思えない。言葉を失うほどの大艦隊が星空を塗りつぶすかのように並び、自らの存在をこれ見よがしに主張していた。
淡々としたストームジーの声が、背後から届く。
「クワウバン。……現行の星間条約に基づき、この惑星の正当な所有権を主張する星間文明だ。あれは、その開発船団だ」
その宣告の重みの前で、4人は自分たちの立場を悟る。家を失った痛みも、帰る場所を持たない不安も、
視界いっぱいに広がる――星の行く末すら左右しかねない現実の前では、あまりにささやかなものに思えた。
穏やかにうねる水面の上で、彼女たちは互いの目を見交わす。その瞳には、もはや迷いはない。
葉を編んだ水着と冠の装いは、束の間の安らぎを象徴する記憶として、まばゆいきらめきを発しながら心の奥底に沈んでいく。
いま彼女たちが身にまとっているのは、ヒーローとしてのコスチューム。
困っている誰かを助けるために取る姿。炎と刃と霊力と獣の手足がもたらす光こそ、
自分たちの現在だと胸の内で言い聞かせる。4人は、それぞれの襟元を、胸中であらためて正した。




