issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 03 01
CHAPTER 3
「遠くまで行くが、ついてこられるか?」
佇まいを正したストームジーの声が、まだ山頂に貼りついている嵐の名残を押し流すように、
低くまっすぐに響いた。
「空は工夫がいるけど、水面なら走れるよ?」
おせちが、代表するように1歩前へ出て応じる。
「そうか、ならそのまま来てくれ。場所は、ここから1000kmほど先にある、海の上だ」
ストームジーの身体が、ふわりと宙へと持ち上がる。彼は振り返りもせず、自ら鎮めた海の回廊へ向けて、一直線に身を解き放った。
「行くぞ!」
アシュリーの身体が紅蓮の炎に包まれ、ホットショットの姿へと変わる。彼女はストームジーに負けじと炎の尾を伸ばし、夜気を焼きながら空を翔けた。
神が拓いた風の道に灼熱の航跡が重なり、2条の光がこの星の夜空を斜めに貫いていく明るい先駆けとなった。
その光芒の後ろに、おせち、はちる、さなの3人が続く。彼女たちは、ストームジーが鎮めた鏡の水面を、まるで固い大地を踏むのと同じ確かさで駆けていく。
おせちの足捌きは、たとえるならトビウオの長い滑空だ。1歩ごとに100m分の風を切り、つま先が触れた1点だけを軽く叩いて、ほとんど波紋も残さず次の1歩へ移る。
連続する跳躍が、海面の上に間隔の広い点線を描いていった。
対照的に、はちるの1歩は、それ自体がひとつの局地的な爆発だった。山の稜線をなぞるような放物線を描いて跳躍するたび、水面は破れ、数m級の水壁が全方位へ押し出される。その飛沫が轟音とともに周囲を洗い、砕けた水の粒が光を弾いて虹色の帯を繰り返し生み出し、海の表情を刻一刻と塗り替えていく。
さなは、はちるのすぐ脇を並走する。霊力で浮かぶ身体は、ホバークラフトを思わせる安定した軌道を保ち、水煙の層を一定の強さで押し分けながら宙を滑走する。その滑らかな進行は、どの瞬間を切り取っても、精密機械が狂いなく動作しているさまを連想させた。
――1000km。地球であれば大陸を横断するに等しい距離だが、彼女たちの超常的な速度の前では、ひとつの場面と呼ぶのもためらわれるほど短い行程に過ぎない。
風を切る音だけが耳元を吹き抜けていく。眼下では、どこまでも続くダークブルーの海原が、ストームジーの拓いた道筋に沿って鏡の盤石さを保っていた。
だが、その細い帯を1歩でも外れた海面では、相変わらず暴風雨が荒れ狂っている。黒い雲が渦を巻き、泡立つ水面がうねり続けながら、見えない壁にぶつかったかのごとく道の縁でせき止められていた。
頭上では、2つに割れた嵐雲の狭間から、紫の星雲と、地球では見たこともない星座が、永遠の支配を謳歌しながら瞬いている。壮大で、しかし孤独な世界。その中心を、5つの光点が、ひとつの目的に向かって突き進んでいく。
やがて、先頭を飛ぶストームジーが、ゆっくりと速度を落とした。
「――ここだ」




