issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 02 24
そのひと声は、嵐を断ち切った後に残る、ただひとつの現実の音だった。
彼の眼前――光の柱が貫いた海の上だけが、奇跡のように凪いでいる。
天と地がひとつの清廉な軸を取り戻したかのように、そこだけが静かな波紋を描いていた。
山頂に立つストームジーの声は、風も雨もない円環の世界に、あらゆる虚飾を剥ぎ取った“事実”として響く。
「今から”あれ”、お前が建て直したってもうそんな気にならないぞ!」
一方でアシュリーの叫びは、人間くさい怨嗟に満ちていた。
だが、背後で広がる光景――海と空を貫く光の回廊が、世界の理そのものを描き直していくさまを前にして、胸中に突き立てた激情の誓いは、否応なく錆びていく。
ストームジーは、その変化を値踏みするようにただ一瞥した。
そして――信じがたい行動に出た。
圧倒的な力を誇る存在が、ゆっくりと膝を折り、ごつごつとした岩肌をかき分けて砂に手をつき、
深く、深く頭を垂れたのだ。
神が、人の前で、地に額をつけた。
この姿勢には傲慢も偽りもなかった。屈辱の表情も、計算の影もない。
ただ純粋な、魂を削る懇願だけがそこにあった。
「どうか頼む、この通りだ。この星の……そして生まれるべき生命の未来がかかっている」
アシュリーは息を呑んだ。
燃え立つはずの怒りは行き場を失って宙に溶け、
胸の奥では、熱だけが持て余されたまま、行き所をなくして回り続けていた。
……神が頭を下げた。
その事実は、アシュリーの胸を征服感で満たすことなく、冷たい混乱だけを流し込んだ。
もしあの家がまだ波に呑まれず残っていたなら、
彼の屈服は、どれほど甘やかに彼女の自尊心をくすぐったことだろう。
だが、手にしていたものをすべて失った今、光景はもはや勝利の証ではなかった。
(……なんだよコイツ。本気で言ってるのか……?)
光の柱が海を染め上げる中、4人の少女は、互いに顔をおそるおそる見合わせた。
そして、ようやく理解する。この男の振る舞いに、ひとつたりとも“演技”の影が存在しないことを。
彼の身振りや態度――傲慢と従順が忽然として入れ替わる、その奇矯な感情の振れ幅は、「自然霊」と呼ばれる、人に似て非なる存在の率直さから生じたものだった。
すなわち、先ほど示した神そのものの威厳も、今この場における全面的な嘆願も、
いずれも彼にとって偽りのない本心であり、それを、外から見れば脈絡のない形で露わにすることこそが、彼にとっての唯一維持すべき「一貫性」なのである。
4人の少女は、そんな不器用な言動の奥に、彼の魂が発する切実な救難信号をたしかに垣間見ていた。
おせちは冷静に状況を分析する。傲岸な態度の裏に潜む途方もない使命感、その使命が今、自分たちの想像を超える危機に晒されているという事実。
彼女の瞳が、ストームジーの瞳の奥にある、揺るぎない「真実」の核心を探るかのように細められる。
さなは、ただただ、神の孤独と絶望に共感した。長き時をかけて、たった1人で星を育んできた存在が、
初めて他者に助けを求める――その痛々しいほどの切実さが、彼女の胸を締め付ける。
はちるは、いつも通り理屈よりも直感に従う。目の前の存在が、本当に追い詰められている――その1点だけは、獣としての感覚がはっきりと告げていた。
おせちが口を開く。
「……わかった。何があったのか、話してくれる?」
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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