issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 02 22
その身体には水滴ひとつ付着しておらず、周囲の暴風さえ、彼を避けるように軌道をねじ曲げていく。
ただ、その肌だけが異様なほどに乾ききり、冷たい光沢を帯びていた。
アシュリーの瞳に、怒りの炎が灯る。
彼女は拳を握りしめ、唇を噛んで1歩前へにじり出た。
「……お前!」
どうしてもその声は、単なる叫びにはなり得ない。
噴き上がる激情がそのまま声の体裁を取り、空気を破いた。
アシュリーはストームジーの腕を強引に掴み、濁流に呑み込まれつつある島の方角を、
半ば叩きつけるように指し示した。
波が、あの美しい白砂の肌を酸のように灼き、暗い泥の底へと引きずり込んでいく。
自分たちが笑い、語り、眠った場所――あの「家」のすべてを、この星の歴史から無意味なものとして削り取っていく光景。
「見てみろよ、これ!お前の言う“仕事”ってのは――ガキに積み木遊びさせといて、
いちばん綺麗に積み上がった瞬間にぶっ壊すことなのかッッ!?」
彼女の声は、怒号というより、涙に近い震えが混じっていた。
それでも、ストームジーの表情は揺れない。
ただ端正に細められた双眸で、彼は4人を静かに見下ろす。
そこにあったのは、感情を切り捨てた者の、底知れぬ平常心だけだった。
「許せ、とは言わない。だが、これも私の計画に必要な、プロセスの一環だ」
「はあ!?何がプロセスだよ!」
アシュリーの声が、残響となって山頂の岩肌に染みわたる。
ストームジーは、そんな奔る感情を真正面から浴びながらも表情ひとつ変えず、乾いた声を継いだ。
「この嵐は、深海の熱水噴出孔を活性化させ、新たな生命の揺り籠を創り出す。
君たちの小さな住処は、その過程で生じた、取るに足らない余波によって崩壊したに過ぎない。
事前に伝えていなかったことは謝るが」
神の高みから見下ろす説明だけが、冷ややかな雨に混じって降り注ぐ。
アシュリーの胸中で、怒りと、言葉が通じるはずの相手にいつまで経っても真意が届かないという絶望が、同時に火花を散らした。
「取るに足らない?ふっざけんなよ……!」
握りしめた拳が赤熱し、まとわりつく雨粒を次々と消していく。
それでもストームジーは、その炎さえ景色の一部と見なすかのように受け流し、
声の調子を変えぬまま言葉の舵を切った。
「君たちの苦情は後で聞こう。それよりも、今優先すべき課題がこの星にはある。大変厄介な事態でね。
正直なところ今日になるまでは話すつもりもなかった。しかし、もうにっちもさっちもいかないのだ。――同族として、正式に協力を要請する」




