issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 02 21
「うそ!?……まだ来るのぉ!」
さなの叫びに呼応するかのようあらわれたのは、先の1尾と同じ種類の大魚たちだった。
嵐と渦に巻かれ、己の舵を取れなくなった巨体が、見えざる水路に導かれるまま島へと雪崩れ込んでくる。海という比類のなき存在が、万物を道連れにした集団自殺を開始したかのような狂気。
岩礁は砕ける奥歯のごとく弾け飛び、島の輪郭は秒刻みに削り取られ、轟音が大気を暴力的に震わせる。
おせちは歯を食いしばり、眼前の破局を睨み据えた。 ――単なる自然現象と断じるには、
あまりに作為的すぎる。
この星の環境サイクルに組み込まれた――
生命を選び取り、地形さえ作り変える「浄化」の儀式。
その中心に、いま自分たちは立っているのだ。
「ダメだ、……これはもたない!みんな、向こうの島の山頂に逃げるよ!」
おせちの絶叫を合図に、4人は、もはや崩壊を免れない自分たちの「家」を諦め、
それぞれの輝きをその身に纏う。炎の飛翔、雷の跳躍、霊力の浮遊、そして獣の脚力。
4条の光跡が、滝の勢いで降りしきる豪雨を裂き、巻き上がる海風を竜巻のよう引き連れながら空間を駆け抜ける。背後では、コテージの残骸が牙を剥いた波群に噛み砕かれ、
行く手の海面では別の高波が横合いから押し寄せてくる。
それでも彼女たちは、速度を落とさず、火山島の斜面を一気に駆け上がっていった。
岩肌を叩く雨粒が、砕けたガラスの破片のように跳ね散り、足元の溶岩質の地面が、
内に秘めた熱を赤く返す。ふと後ろを振り向けば、さきほどまで彼女たちが暮らしていた島は、
すでに波の中へ沈みかけていた。誰かの悪意そのものが形を取って、4人の大切な日々を、
海底へと引きずり込んでいくかのような光景だった。
そして……。
ずぶ濡れになった4人が、息も絶え絶えに、山頂の平らな岩場へとなだれ込む。
はちるは、びしょ濡れになった獣がそうするように、その場で身を激しく震わせ、
飛沫を派手に撒き散らした。さなは、おせちの背中に守られるようにして膝をつき、
途切れ途切れな息を整えている。
そこでは風も雨も止んでいた。ただ、耳が詰まったかのような、不自然なほどの“凪”が広がっている。
昨日まで薄く煙を上げていた火口は、今や完全に沈黙し、溶岩の熱も、硫黄の匂いさえも気配を消していた。周囲の空気は重たく、自分たちの荒い呼吸の音さえ、乾いた岩に吸い込まれていくようだった。
「……なんか、変だぞ?」
岩に腰を下ろしたまま、アシュリーが搾り出すように呟いた。
その声までもが妙にはっきりと反響し、山頂の空間を素通りする。
見渡すかぎり、世界のどこも同じように嵐のただ中にあるはずなのに、
この一帯だけが、透明なガラスの球で切り取られたような、不思議な無音に閉じ込められていた。
――その一呼吸のあいだに。
頭上の雲が、押し広げられるように割れた。
紫と白の稲光が浅い角度で交差し、天頂から突き刺さる光柱の合流点に、黒い影がゆっくりと輪郭を得ていく。嵐の中心――雲と雷の渦を貫いて降臨したのは、ストームジーだった。
高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。
https://x.com/piku2dgod
本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26572256




