issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 02 18
寝る前の習慣としての、滞在日数を刻む柱の傷がまたひとつ増える。
楽園が、前触れもなく終わりを告げたのは、その日の夜のことだった。
双子の太陽が水平線に沈み、空が紫の星雲に支配される頃。凪いでいた海が、突如として牙を剥いた。
「……今の音、聞いた?」
さなが、土器で作った吊下げ灯の火を点けようとしていた手を止め、不安げに海を見た。
「ああ……?はちるがベッドから落ちたか?」
アシュリーが欠伸を噛み殺した、その瞬間だった。
ゴゴゴゴゴ……
と、地鳴りのような重低音が空気を圧迫する。
黒く渦巻く空の中で、暴風が本格的な唸りを上げた。海面に無数の雨が突き刺さり、
穏やかだった波は、一瞬にして数10mの壁となって孤島に襲いかかる。
「……ひゃあっ!」
「地震!?」
バリバリ!と、棟全体が軋む音。
地震ともまた違う、船揺れのような不規則な震動に、全員が飛び起きる。
雷が窓越しの空を切り裂き、その閃光が、隙間から氷のように冷たい潮風と飛沫が吹き込む様を照らした。その震動が、足の下で荒れ狂う水が起こしていることを知った時、彼女たちはコテージを飛び出し、陸地まで駆けた。
それから10秒もなかった。
「わっ!」
「嘘でしょ!?」
4人は、心血を注いで造った波止場が、最初の数波で、
まるでおもちゃのように粉砕されるのを目の当たりにする。
「嘘だろ、あれ!10t以上の岩で土台固めたんだぞ!」
アシュリーが絶叫する。だが、次の波はコテージ本体に叩きつけられた。
木材が悲鳴を上げる、嫌な音が響き渡る。
「まずい、家が持たない!守るよ!――」
おせちが叫んだ。
「――さなは結界を!はちるは岩をいっぱい持ってきて!アシュリーは波を蒸発させられない!?」
「うん!」
おせちの檄に応え、さなの呪符が袋から弾け出た。
数100の札が宙を滑るように飛び出し、軌跡を描きながらコテージの上空へと渦巻状に拡散していく。
群れは勢いを保ったまま旋回し、やがてその全体がひとつの意志を得たかのように、機械仕掛けの正確さで回転を続けながら降下した。紙片の群体がそれぞれの位置を定め、水を押しのけながら速度を落としていく。
またたく間に半球の完璧な裾が形づくられた。
静止の瞬間には、札面の文様が淡い光脈を放った。
紫黒の結界が輪郭からにじみ出し、雨と風、そして押し寄せる水圧を表面で受け止める。
はちるは内陸側へ駆け出すと、掌に宿る獣力を爆ぜさせ、地面に指を差し入れる。
地表を割って持ち上げられた岩塊が、数1000t級の塊となって浮き上がり、彼女の肩越しに軽く持ち上がる。
はちるは息をはずませて走りながら、それらを波止場の外周に1個ずつ並べていく。
崩れた岸線の先に石の要塞が造られ、押し寄せる潮の勢いを少しでも沖側へ追い返そうとした。




