issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 02 15
寝て起きてみても、元の世界には戻っていない。
その落胆は、観念や希望の類に属する、比較的高尚なものだ。
一方で、屋根も布団もない寝床が肌に伝える違和感――砂の硬さ、朝風の湿り気、
肌に張り付いた塩の感覚――は、もっと即物的な問題だった。
そんな2種類の軽い絶望から、カルテット・マジコの新たな1日が始まった。
今日、世界の一方を覆っていた帳が上がった。
いや、霧か何かが晴れたと気づいたのは、
海原の、昨日とは比較にならないほど広がった展望を目の当たりにしてからだ。
その開けきった視界が、ようやく、あの方角が昨日まで「見えていなかった」という事実を教えてくれたのだ。
「ねえ、見て」
おせちが指さす水平線の彼方に、昨日まではなかった影が浮かんでいた。
頂から細く煙をたなびかせる、巨大な火山島――それは、この停滞した世界に投じられた、
あまりにも魅力的な「変化」という名の小石だった。
「おっ、新マップか?」
アシュリーの瞳に、闘争心とは違う、純粋な好奇の光が宿る。
はちるも、むくりと体を起こし、大きな耳をぴんと立てた。
「あそこまで、どうやって行こうか」
「あそこくらいなら、ジャンプしてけばよくない?」
おせちの問いに、はちるがまるで当然のように答える。
水平線上に存在する以上、距離はせいぜい数km、遠くても10数km。
地球屈指の超人である彼女たちの脚力なら、ひと息で届くはずだ。
が、そのあまりに“効率的すぎる”提案に、おせちは悪戯っぽく笑って首を横に振った。
「そういうのは、ゲームが面白くなくなるチートでしょ。――そこでね、提案があるんだけどさ、この機会に船づくりの練習してみない?」
予想外の言葉に、アシュリーは「はあ?」と眉をひそめる。
「船?んなのさっさと行って、なんか面白いこと探したほうがずっといいだろ」
「行って、それからどうするの?」
おせちは、静かな迫力で返す。
「私たちの力で半日も探検したら、あんな島、それで終わりだよ。また退屈な毎日が戻ってくるだけ。
今の私たちに必要なのは、目的地じゃない。そこへたどり着くまでの、“やること”そのものなんだ。
でしょ?」
その言葉は、的確に――全員が心のどこかで感じていた虚無感の正体を、
やさしく、しかし鋭く射抜いた。
……そうだ。
戦う相手がいないのなら、作ればいい。
乗り越えるべき困難がないのなら、自分たちで設定すればいい。
有り余る力と時間――その両方を使って、この何もない世界を、
壮大な「遊び場」に変えてしまえばいいのだ。




