issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 02 14
「あしゅぃ~、絶対はなれないでよ!」
「はいはいわかったって……」
そして、ごちゃごちゃと低い声で言い合っているうちに、彼女たちの肌はお互いの体温を探しあうようにじりじりと摺り寄り、やがて、より緊密な“就寝のかたち”が出来上がっていく。
「おいはちる、さすがにここじゃ暑苦しいから、せめて人間になれよ」
そこでアシュリーは何かに気が付いた顔をし、さなを挟んで、ふかふかの手先を回してくるはちるに文句をつけた。
「や~だ~!」
しかしはちるは、砂を蹴るように駄々をこねる。
「なんでだよ!?」
「……気分じゃないもん!」
「じゃあ気分になれよ!」
「や~あ~!」
アシュリーが、この日1番の深いため息をつく。その諦めの吐息が合図だった。
さなが待っていましたとばかりに、その胴にさらに強くしがみつく。
「これで、ようやく寝られるや……」
安堵しきった小さな呟きが、星明かりと海の狭間に、祈りのように溶けて消えた。
「……んだよ、甘えん坊め」
アシュリーは悪態をつきながらも、さなの抱き寄せを拒まなかった。
炎の使い手である彼女の体温は、ほかの誰よりわずかに高い。
さなはその背に顔をうずめ、アシュリーの髪から立ちのぼる、焦げつきとは無縁の、陽だまりそのものを思わせる香りを深く吸い込む。
呼吸を重ねるごとに、冷え込んでいた胸の奥まで熱が通いはじめた。
やがて、口もとにおだやかな笑みが浮かび、長い睫毛の陰に、淡い幸福の光が宿る。
おせちもまた瞳を閉じて、かぎりなく力を抜き、この星への警戒を緩めた。
彼女は、目を閉じてことに少女の色合いを帯びた顔と胸、それを自由に抱きとめる権利を、
当然のようにアシュリーに明け渡す。誰がどこにいても、この「形」――この並びさえ整えば、
そこが彼女たちの居所となる。それが銀河のどこであろうと。
潮騒と浜風、そして少女たちのあどけない寝息だけが響く。
その夜、白砂に記された「川の字」は、寄せる波と異界の月影にやわらかく溶けていった。
燃え殻の残光と星々のきらめきが、
はちるの部屋ではけして見られない飴色の表情をひとりひとりに与える。
はちるの耳の輪郭が、わずかな灯りを受けて柔らかく光を返し、
おせちの髪は白砂の上にほどけた金線のようにちらちらと明滅する。
アシュリーの頬には紅蓮の名残が淡く差し、
さなの眼差しには、まだまどろみきれない幼さが揺らめいていた。
眠りが深まっていくにつれ、4人が秘める乙女としての無垢さ――その砂糖細工の特質は、
かえって清明さを増していく。
音の気配が遠のいたこの浜辺で、彼女たちの存在そのものが、
最も尊い「生命の花」となって砂の上に咲き続けていた。
星の吐息が海面を撫で、潮の鼓動がか弱く打ち寄せるたび、少女たちの寝姿はかすかに身じろぎし、
すぐに安らぎへと帰っていく。
――この夜、この宇宙の果てにある小さな汀で、
彼女たちはたしかに、“帰る場所”を見つけていた。




