issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 02 08
そのひとことに、ストームジーの動きがぴたりと止まる。
奇妙な空気感を破ったのは、砂浜の、すこし離れたところに立つおせちの声だった。
「……ちょっと!話がこんがらがるからやめて」
毅然とした態度で、アシュリーの軽口を制する。
アシュリーはおせちの横槍に目くばせを返すと、不満げに炎のオーラを揺らめかせながらも、
ひとまず口を閉ざした。
ホットショットとストームジーが砂浜に降り立つのを待ち、
おせちは2人の元へ駆け寄って、交渉役を引き継いだ。 彼女は簡潔に、しかし正確に事の次第を告げる。
「シャカゾンビっていう、うちの母さんとは違って本当に悪い奴と戦ってました。さっきまで。
そいつの本拠地にあった不思議な装置に触れたら、なぜかここに飛ばされてしまったんです」
彼女はそこで言葉を切り、まっすぐにストームジーの瞳を見据え直した。
「それで相談なんですが、私たちが帰る方法を知りませんか?」
それは懇願ではなかった。状況を打開するための、最も直接的な問いだ。
その問いに対し、ストームジーは、わずかな間を置いて、静かにかぶりを振った。
「すまないが、その点については力になれそうにない。私の権能とは種類が違う仕事なもので……」
その返答に、4人の間にどうしようもない沈黙が落ちる。だが、ストームジーは続けた。
「――しかし、そういう事情なら悪くは遇しない。脱出の策を思いつくまで、
この島は自由に使ってくれていい」
すると、全員の顔にあった強張りが解け、ようやく安堵の色が兆す。
「ではまた。食料や資材は、そうだな……。君たちが必要とするであろう物を乗せたイカダが、
この島に流れ着くよう、海流を調整しておこう。とはいえ原始の惑星だ。大したものは期待するな」
ストームジーは、まるで業務連絡でも終えるかのように淡々と言い放つ。
「では、私はそろそろ仕事に戻らせてもらう」
「……仕事?」
踵を返しはじめた、その引き締まった茶色い背中に、アシュリーの純粋な疑問符が突き刺さった。
「……何か?」
ストームジーは、面倒そうに、しかし動作だけは優雅に振り返る。
「あ、いや――」
アシュリーの口元に、いつもの不遜な笑みが戻っていた。
彼女はこの「神様」の尊大さが、先ほどからどうにも気に入らない。
「――こんな生命の気配すらない星で、一体どんなご立派な『仕事』があるのか気になっただけだよ」
「?」
ストームジーはなおも首をかしげる。
彼は本気で、その問いの意図を測りかねていた。その「神」としての圧倒的なズレっぷりを見かねて、
アシュリーはさらに言葉を重ねる。
「……もしかすると、アンタも『そっち側』の神様なのか?
うちの吉濱尚猛尊も、パチンコで台を揺らすのを『宇宙に満ちる因果律の揺らぎ、
その乱数的な奔流を、あるべき形へと収束させるための神事』とか言ってたよ」
そのからかいを隠さない問いかけにストームジーは、ようやく、身体ごとゆっくりと向き直る。
彼の妖艶な瞳が、アシュリーを、そして彼女の背後に立つ姉妹たちを、再び異物として見据えた。
「……私のやっていることは、惑星の土壌づくりだ。その『パチンコ』なるものが何か、
私の知識にはないが、語感からしてどうせ低劣な遊戯だろう?その不逞な同族とは、一緒にしないでくれ」
アシュリーが放った、ただの皮肉。この惑星の尊大な神を嫌がらせをするためだけの、刹那の悪意。
だがストームジーは、その言葉を額面通りに受け取ってしまった。
彼のデータベースの中で、会ったこともない吉濱尊という「管理霊」のイメージは、
今この瞬間、修復不可能なほどに地に落ちたのだった。




