issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 02 07
「さて……。話の続きを聞こうか」
ストームジーの、底光りする片方の瞳がじっとアシュリーを捉える。
その視線には、やはり敵意も警戒もない。ただ、未知の数式を解き明かそうとする学者の、
純粋で、無機質な探求心だけが宿っていた。
「なんだ、お前レフェリーのつもりか?さっきのシミュレーションの理由を答えさせて、
気に入らなかったら笛吹いて退場させる気か?」
アシュリーは腕を組み、ふてぶてしい態度を崩さない。
炎のオーラが、彼女の不満に呼応するように、わずかにその勢いを増した。
「私はただ、データを収集している。君たちの存在は、この星の調律における想定外の変数だ。そして、あらゆるアノマリーは、分類され、理解されねばならない」
「……はぁ。要は、うちらをスカウティングしたいってワケか。まだチームの監督になるかどうかも決まってないのに、ご丁寧に、個人スタッツから移籍履歴まで全部揃えたいって?」
アシュリーは、やれやれ、と肩をすくめてみせる。彼方には、先ほどまでの嵐が嘘のような、
穏やかな海が広がっている。
「まあいいや、教えてやる。どうせ、長くなるような話でもないからさ」
そして彼女は、まるで世界で1番どうでもいいゴシップでも披露するように、言葉を放っていく。
「……かいつまんで言うと、私たちの母親は吉濱尚猛尊ってヤツだ。見た目はちっこい鬼だけど、
あんたと同じで、やたらと偉そうな古い神様だよ。で、私たちは、それに拾われた人間の子供。だったはずなんだ――」
「……母ちゃんが、わたしたちを勝手に改造した。仙丹?とかいうやつでな。
その上めちゃくちゃに鍛えられて、気づいたら、こんなんなってた。
剣の達人になったり、火ぃ出したり、怪力になったり……あと札を操ったり」
彼女は一旦言葉を止め、自嘲するように、ふっと笑った。
「……つまり、育ての親の神に、まあ『神サマもどき』に仕立て上げられたワケ。
だけど、自分たちじゃ別にそうは思ってないんだよ」
アシュリーがひとしきり語り終えたのを理解して、ストームジーはしばし沈黙した。
彼の右眼が、再び、情報を処理するためか、青白い光の流れのもとに明滅する。
やがて、ストームジーが何かを断定すべく唇をわずかに開いた、その瞬間。
「――ああ、お察しの通り悪いヤツだよ、そいつは。節分に豆を投げてやるといい」
まるで彼の思考を先読みしたかのように、アシュリーが、皮肉を込めてそう言った。
この神霊が下すであろう、単純で――そしてどこかズレた結論を、彼女はあらかじめ提示してみせたのだ。




