issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 02 03
――神々の水槽。この天体の絶望的な本質を知った4人に、選択の余地はなかった。
はるか彼方の水平線に、点として佇む孤島。そこが唯一、この星で足の着く場所に見えた。
「あそこまで……!大声立てずに、静かに行くよ!」
おせちの切羽詰まった叫びを合図に、4人は一斉に水を掻く。
だが、希望へと向かうその航路の真下には、常に、あの耐えがたいほどに大きな影たちが、
ゆったりと、しかし確実にうごめいていた。時折、進路先の水面が不自然に盛り上がっては、
肌に音のない振動が伝わってくる。
旺盛すぎる生命の気配が、彼女たちの本能に、抗いがたい恐怖を送り込み続ける。
……まさに、その時だった。
天候の急変は、いかなる予兆も伴わなかった。今まで2つの太陽が照り付けていた空が、
まるで墨汁を垂らしたかのように、4人の頭上から急速に闇を広げていく。
「――!?」
風が生まれ、瞬時に暴風へと成長し、雲は渦巻きながら凝集する。穏やかだった海面は、
怒れる獣のような牙を剥き、荒れ狂う大波が、小さな少女たちの身体を容赦なく叩きつけ翻弄し始めた。飛沫が凶器となって顔を打ち、視界さえ奪う。
――そのあわただしい世界の変貌が、1分にも満たない間に起こった。
そして嵐の中心――渦巻く暗雲にぽっかりと穿たれた、不気味なほど静かな「目」から、1人の男が、
重力の支配を拒みながら悠然と舞い降りてきた。
男の肌は、陽に焼かれたような、滑らかな光沢を帯びた褐色だった。引き締まったその肉体には、
贅肉の1片もなく、まるで黒豹のようにしなやかな筋肉の躍動を秘めている。
後頭部で女よりも丁寧に束ねられた黒い髪からは、鬢の毛が無造作にこぼれ落ち、
そのうち数本が艶やかに、天を指すエルフ耳へと垂れる。細められた眼差しは、
女心を惑わす妖しさを帯び、手入れの行き届いたヤギ髭が、その謎めいた雰囲気にいっそうの華を添えていた。
鮮やかな赤と青のハーレムパンツは、嵐の中でさえ鈍い光を放つ金の装飾に彩られ、
鍛え抜かれた上半身には、同色のベストが素肌に直にまとわれている。
その姿は、まさしく魔法のランプから呼び出された、古代の精霊そのものだった。
彼は、荒れ狂う波の頂点すれすれに、まるで硬い大地を踏むように、音もなく降り立つ。
足は水面に触れてすらいない。彼は眼下の4人を意にも介さず、その切れ長の瞳を、海中でうごめく強大な影たちへと向けた。
「――」
男が、すっと片手を海面にかざす。すると、その指先から、今まさにこの宇宙の設計図が展開されるかのように、緻密で、それでいて温かい黄金の光の波動が、同心円状にどこまでも広がっていった。
光が波濤に浸透するたび、あれほど荒れ狂っていた海は、嘘のようにその猛りを鎮めていく。
牙をむいていた波はなだらかなうねりへと変わり、暴風は心地よいそよ風へと収束する。
深淵を行き交っていた巨大な影たちも、その黄金の光に撫でられると、まるで母の歌を聴いた赤子のように、体から殺気を抜き、安らかに、そしてゆっくりと、より深い海の底へと身を沈めていった。
やがて、嵐さえもが完全に消え去り、世界には再び、あの完璧なまでの異様な晴れが訪れる。
その絶対的な凪の中で、男は初めて、波間に浮かぶ4人の少女たちへと、
射抜くような視線を向けた。 底知れぬ知性と、さなきだに妙な色気を宿した瞳が、
彼女たちの魂の芯までを見透かすように、細められる。
「お前たち……”同格”だな!?」
その声は、問いかけではなかった。 神が、神を見出したことへの、揺るぎない事実確認。
彼は、目の前の少女たちが、この星の理に属さぬ――しかも高次の存在であることを見抜いていた。




