issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 02 02
その中で、いち早く好奇心を取り戻したはちるが、意を決したように水の中へと顔をつけた。
立つ泡をかきわけて、彼女の視界が青黒い世界に浸される。 獣としての鋭敏な感覚が、
水という高密度の媒体を通して、音ではない、「質量」そのものの本質的な振動を捉えた。
次の瞬間、彼女は水面を爆発させて顔を出す。
「――ッ!!!」
言葉にならない。ただ、その瞳は極限まで見開かれ、恐怖に染まっていた。彼女は、
ただ、わなわなと震える指で、真下の深淵を繰り返し突き刺すように指し示した。
「どうしたの、はちる!?」
おせちが叫ぶ。そのただならぬ様子に、アシュリーとさなも、覚悟を決めて海中を覗き込んだ。
そして、見た。
深淵の、どこまでも続く青黒い闇の中を。
まず視界に飛び込んできたのは、眩いほどの光。数億、数10億では足りないほどの微小な生物発光が、
海の中層を「銀河」として埋め尽くしていた。それはあまりに美しく、同時に、下の本当の闇を覆い隠すための、欺瞞的なカーテンのようでもあった。
その光の銀河が、突如として「割れた」。
まるで巨大な客船が通り過ぎるかのように、光の帯が両断され、その下から、深淵の闇が「昇って」きたのだ。
それは、先ほど見た数100m級の巨魚と同じ規模の「何か」だった。
まず目に飛び込んできたのは、鯨に近い輪郭を持ち、そこに、イソギンチャクの触手が林立している摩訶不思議な生物だ。その触手1本1本が高層ビルほどの太さを持ち、先端が絶えずうごめきながら、周囲の水を細かく掻き乱している。
背後では、別種と思しき影がゆっくりと姿を現していた。大王イカを思わせる外套膜を持つ生物で、その頭部だけで山がひとつ丸ごと収まりそうな大きさがある。長大な腕が幾本も伸び、束ねられたり解き放たれたりしながら、手前の群れのあいだを重たくうねっていた。
そうしたものが、「1体」や「2体」ではない。 まるで川を泳ぐ小魚の群れのように、当たり前の日常として、裂け目のすぐ下の世界を支配していた。
だが、最も恐ろしかったのは、その更に下。 深淵の底。あまりにも巨大すぎて、それが生物なのか、
あるいは海底火山のような地形なのか判別がつかない「何か」が、ゆっくりと「呼吸」している。
そこで繰り返される呼吸こそが、海域全体をゆるやかに脈動させる力の正体なのだった。
……4人は悟った。 先ほどのシーラカンスのジャンプは、この星の生態系にとって、
水たまりでメダカが跳ねた程度の、些細な出来事に過ぎなかったのだ、と。
ぞわりと全身の肌が粟立ち、体温が急速に奪われていく感覚。
ここは楽園などではない。怪物の巣窟だ。
「……逃げなきゃ」
最初に口を開いたのは、おせちだった。その声は恐怖に震えながらも、
司令塔としての冷静さをかろうじて保っていた。
「この星は……ダメだ。私たちのスケールじゃない。1刻も早く、あの島に……!」
彼女の指が、水平線の彼方に、点のように浮かぶ孤島を指す。
アシュリーも、さなも、はちるも、今度ばかりは誰1人、軽口も悲鳴も返さなかった。
ただ無言で、しかし力強く頷き返す。
4人の心は、完全にひとつになっていた。
この、神々の水槽から1秒でも早く逃げ出さなければならない、と。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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