issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 01 36
そして、ふと、彼は眉を伏せた(ように見える)顔をして、ポツリと呟いた。
「……はちるの”病気”は……もう治りまちたか?」
ひどくむずがゆそうに口をついた、その唐突で甘い言葉に、ホットショットの勢いが止まる。
「えっ? ……”アレ”のことか? ああ……まあ、なんとかなった、けど……」
ホットショットは困惑しながら答える。
(こいつ、やっぱり気付いてたのか……いや、それより、気にしてたのかよ……)
「……なら、いいでちゅが」
心の奥底から、ほんの数ミリだけ取り出されるようにして、気恥ずかしそうにねぎらいとも安堵ともつかない言葉が出てくる。
「――!」
その一言に、切れ切ってはいない絆の残滓を確かに感じ、ホットショットが何かを言いかけようとした、その時。
「でちゅが!」
マクロブランクの声が、再び甲高い怒気を取り戻す。
「それでもわちきはシャカゾンビについていきまちゅ!なぜなら奴は、お前たちのように、
まだわちきとの約束を破ったりはしてまちぇんからな!」
結局、彼は力強くそう宣言した。その本質的な言葉は、
カルテット・マジコの4人にとって永遠にぬぐいがたい弱点であり、
この時も鋭い刃となってホットショットの胸に突き刺さった。
――ゲートを強制閉鎖し、彼の絶望の叫びを置き去りにした、あの日の記憶。
「……っ」
返す言葉が、見つからなかった。 いつもは炎のように燃え盛る彼女の口から、
皮肉ひとつ、怒号ひとつ出てこない。
その一瞬の沈黙――。
それが、マクロブランクにとって最後の好機となった。
「だから、もうお前たちに用はないのでちゅ!」
マクロブランクが、触手を這わせて身を低くする。その姿が部屋の奥へと滑り、
昆虫のような異形の小型艇へと瞬時に格納された。
「待てよ!」
我に返ったホットショットが、炎を噴射させて後を追う。
だが、その進路を阻むように、壁両面のメンテナンスハンガーに懸架されていた戦闘ロボット群が、
赤いカメラアイを一斉に光らせて床へと降り立った。
無数のブラスターがホットショットへと向き、広大な部屋を分断する灼熱の弾幕を放つ。
「邪魔だ、どけっ!!」
ホットショットは再加速し、小なる恒星の鼓動のごとく、全方位へ炎の衝撃波を放ってロボットの群れを一挙に薙ぎ払った。
そのコンマ数秒にも、マクロブランクを乗せた小型艇は射出シークエンスを完了する。
反重力で機体が浮遊して回頭し、背部のスラスターに青い光のつぼみが宿った。
猛追するホットショットは全力で手を伸ばすが、あと腕のほんのひと掻き分、その軌道には届かない。
ポッドは、開かれた格納庫の射出口を抜け、1条の光となって遠くの空へと打ち出されていった。
「――チッ!」
遠心力に空転するホットショットの体――。
あとに残されたのは、壊された部屋の残骸と、やり場のない怒り、
そして胸の奥に鈍く疼く、あの罪悪感だけだった。




